独房の中の出会い
やっぱり一文一文改行の空白があったほうが読みやすいですかね?
薄暗い独房の中で下半身モロ出しの歩は倒れていた。
四畳もない空間には何に使うか分からない異臭を放つ壺と水の張ってある瓶、そして所々に飛び散っている血の跡。日の光が入って来ない地下のはずなのに石床の隙間には草が生えている。
「おい新入り」
歩のいる独房の隣から少女のような可愛らしい声が聞こえてきた。
しかし歩は気を失っていて返事ができないでいる。
「聞いてるのか新入り! 返事をしないとはいい度胸なの!!」
隣の牢屋にいる少女からは歩が気を失っていることが確認できないため、返事のないことに息巻いた。
「うるせえぞクソ獣人!」
少女の大声に看守が怒鳴る。
牢屋には歩と少女の二人しかいないため看守は気を緩めているが、さすがに大声となると看守も気づいて注意と共に暴言を吐く。
「ごめんにゃさい!」
看守の大声に少女はビクッと身を竦ませ、即座に謝った。
「ったく、そこの男はまだ起きねーのか。さっさと報告しねーと面倒くせぇ」
看守は小さく悪態をついた。
歩がここに連れてこられたとき、宰相から看守に歩の意識が戻ったらすぐに知らせるようにと命令があった。
しかしアーガストの王城の牢屋はあまり使われることがなく、狭い汚い臭いという場所なだけに看守という仕事は不遇の役職であるため、看守につく者は仕事熱心とは言えない者ばかりである。常に歩を見張ることはなかった。
そのため歩が起きていないことを確認するとすぐに牢屋から意識をそらした。
少女は看守が牢屋から意識をそらすまでジッと黙っていた。
耳のいい少女は看守の言葉から隣の独房にいる男の意識がないことを知り、どうするか考えていた。ここから脱出するには自分一人では無理だと分かっている。だから新しくやってきた隣の独房にいる男を仲間に引き込み脱出を試みようと思っていた。しかし先ほどの看守の言葉の内容では、看守は男が起きるのを待っているようであった。もしかすると男が起きた後がチャンスかもしれない。
少女が思考を巡らせていると、隣の独房にいる歩が小さく呻き始めた。
「新入り、気が付いたの。聞こえたら小さな声で返事するの」
大きな声を出すとまた看守に気づかれてしまうと思い、呻き声を聞いた少女は小さな声で歩へ呼びかけた。
「ッー、クソ、なんかいてぇし、なんだここ」
勇者召喚から一時間ほどしか経過していないが、歩は酒が抜け素面に戻っていた。
「しっ、静かにするの。あと返事をするの」
ここで看守に見つかったら作戦を立てる前に終わりである。歩からは見えないが少女は人差し指を口元へ持っていき、緊張感をもって静かにするように促した。
「ん、聞こえてる」
少女の緊張感を察した歩は小さな声で短く返答した。
「新入り、名前を言うの」
これから一時的にとは言え仲間になるかもしれない相手である。まずはお互いの名前を知らないと始まらないと思い、少女は歩へ尋ねた。
「普通そっちから名乗るもんじゃないのか?」
「新入りから名乗るのは当たり前なの」
「あー、そうかい。俺は歩だ」
そんな当たり前があったとは知らなかったなと、バカにするかのように少々ぶっきらぼうに答えた。
「……私はキルルクなの」
歩がしっかり答えたことに満足したキルルクは、多少イラッとしたがここで言い合いになったら看守に気づかれ計画がパーであると考え、歩の挑発を無視して自分の名前を名乗った。
「んで、ここはどこなんだ?」
「ここはアーガストの王城の牢屋なの」
歩は全く聞いたことのない名前にアーガストとは何かと一瞬考えたが、とりあえず国の名前なのだろうと察したが、アーガストなんて国は聞いたこともなかった。しかしそんなことより、牢屋にいるということが気になった。
「アルクは何をやって入れられたの?」
ここでもしも殺人などの凶悪なものなら協力して逃げるという案はなくなる。そうなった場合、キルルクは歩が起きたことを看守に伝えて逃げる隙を作ってどうにか一人で逃げようかと考えていた。
歩は男たちに取り押さえられるところまでは覚えていた。つまりはその前にやった女の子の顔に小便をかけてしまったことが原因で捕まってしまったのだろうと考え至った。
「……女の子に小便かけたから、かな」
キルルクはドン引きした。女の子に小便をかける変態性にもだが、たかだかそれだけの理由で王城の牢屋に入れられるとは、一体どんな身分の女の子に小便をかけたというのか。
歩の言葉で微妙な空気になってしまった。
「そ、それならまぁいいにゃ」
動揺して語尾が変になってしまったが、キルルクは協力する方向で考えを進めた。
「とりあえずここから逃げるの」
「逃げるって、そっちは分からないけど、俺は謝れば釈放してくれるんじゃないのか?」
日本でも女の子に小便をかけたら謝るだけでは済まされないだろう。現実離れしたことが続いて歩は多少混乱していた。
「多分、無理なの。ここに入れられたってことはやった相手の身分は相当高いの。最悪死刑なの」
「そんな!」
「にゃああああああああああ!!」
「静かにできねーのかクソ猫!」
歩が少し大きな声で驚いてしまったため看守にばれまいとキルルクが大きな声で叫んだが、すぐに看守に怒鳴られた。
「ごめんにゃさい!」
キルルクはビクッと身を竦ませて即座に謝った。
「静かにするの」
キルルクは少し語気を強めて歩を咎める。
「あ、あぁ、すまん」
歩は自分の代わりに怒られて謝らせてしまったためすんなり謝った。声を聴く限り可愛らしい女の子なのだろう。そんな女の子を怯えさせてしまったことに少し後悔した。
「とにかくここから逃げるの」
「分かった。でもどうやって?」
さすがに死刑と聞いた歩は、覚悟を決めてキルルクの計画に乗ろうとした。
「看守はどうやらアルクが起きたらどこかに報告しに行くの。その隙に鍵を取って牢屋から抜けて王城から脱出するの」
「鍵を取るって、まず鍵はどこにあるんだ?」
「上の階に通じる扉にかけてあるの。あの程度の距離なら私のスキルで取れるの」
歩はそーっと鉄格子の間から顔を出して扉を見た。距離にして約三十メートル。普通に考えて取れる距離ではない。
「あんなの取れる距離じゃないだろ」
「大丈夫なの。私の<盗賊の手>なら目に見える範囲の物は大抵取れるの」
「なんだよその<盗賊の手>って」
「さっきからごちゃごちゃなんなんだ。って、なんだ起きたのか」
すぐに鉄格子から顔を戻したが、看守に見つかってしまった。これによって歩の疑問が晴れることなく計画開始となった。
歩が起きたことを確認した看守は上の階へ通じる扉を開けて行ってしまった。
聞き耳を立てていたキルルクは、看守の足音を聞いて十分に距離が開いたことを確認して、鉄格子から顔を出して鍵を目視した。そして<盗賊の手>を発動すると、扉にかけてあったはずの鍵が一瞬でキルルクの手の中に収まった。
キルルクはすぐさま自分の独房の鍵を開け、歩の独房も開けようとした。
「看守が戻ってくる前に早く逃げるの! って、なんで下に何も履いてないの!?」
キルルクは驚きながら歩のあそこをまじまじと見つめた。
「いや、これは、違うんだ。これは……あっと、ごめん。突然尿意が……」
手で前を隠し言い訳を考えたが、突然尿意を催した。
「そんなのいいからとにかく逃げるの!」
「小便垂れ流しで逃げられるわけないだろ。ちょっと待ってくれ」
歩はキルルクに背を向け壁に向かって小便をしようとした。すると歩のアレの先っぽに見慣れない紋様が現れた。
それに気づかず歩が小便をすると――ありえない勢いと量でもって壁を粉砕した。それはまさに極太のレーザーのようである。
あまりのことに歩は驚いて転んでしまい、いたる方向へとその凶悪な尿をまき散らした。
それを見ていたキルルクも唖然とし、鍵を開けた独房の扉に手をかけようとしたところで固まっていた。
数秒後、歩の尿も収まったとき、尿の余波で独房の扉がひとりでに軋みながら開いた。
「あ、あはははは、こっちから逃げよっか」
歩は微妙な笑いと共に後ろを振り返っていまだ固まっているキルルクへ提案した。
お読みいただきありがとうございます。
やっと尿圧出ました。
盗賊の手=目に見える範囲の手に掴めるサイズのものを手元に移動させる
1/19 誤字脱字修正。文章追加。