上橋菜穂子さん講演会
今年の3月に、児童文学のノーベル賞とも言われる国際アンデルセン賞を受賞した上橋菜穂子さんの講演会に行ってきた。
絶大な人気を集める上橋作品だが、自分が読んだのはつい最近である。
もちろん、作品自体は存じ上げていた。
十年……かどうかわからないくらいの昔、派遣社員の女性から、『守り人』シリーズが面白いから是非読め、と勧められたのが最初だが、今まで読まないできた。
ファンタジーや児童文学は大好きなのだが、何となく食指が動かなかった。
なぜだろうと思うが、よくわからない。シリーズものなので、全部集めて読むのは大変だなという意識が(なにせ読み始めると没頭して他のことができなくなるので、そんな自分を危険視。謎)働いたせいかも知れないし、他に興味のある作品がたくさんあったせいかも知れない。あるいは、読む時間を惜しんで(なにせ読み始めると……以下略)違うことに興じていたこともあるだろう。
しかし、今年の夏、いよいよ、手を出した。
まずは『守り人』シリーズからである。とりあえず、ブックオフで最初の編を購入してみた。
なぜ新品ではないかというと、面白くなかった場合に、「本代、損した」と思うからである。紙の書籍は高い。昔はもっと安かったのに、気軽に買えないくらい高くなった。文庫本ですら少し分厚くなっただけで、「げっ」と思うような値がついている。
よって、お初の作者の場合は、中古本から様子を伺うわけである。気に入ればもちろん新品購入、作者に投資する(印税)。
結果。
一気読み、かつ、残りのシリーズ本、大人買いである。
今は、『獣の奏者』を読んでいる。
作品の魅力を語るのが今回の趣旨ではないから割愛するが、児童文学という括りを既に超えてしまっていると感じる。
気に入りの作者を持たない自分であるが、絶賛お気に入り中である。
(昔は村上春樹氏が絶賛お気に入りだったが、最近の作品に魅力を感じないため(個人的感想)、すっかり離れてしまった。残念だ)
そんなわけで、受賞記念の講演会があると知り、のこのこと出かけていった。
会場は満員御礼である。そうだろう、そうだろうと思いつつ、わくわくしながら待つこと数十分。
登壇された上橋さんは、写真で拝見したとおり、にこやかで福々しい感じの方であった。
しかし、話し始めると、これがなかなかおきゃんというか男っぽい。けれど、きついということはなく、むしろ可愛らしかった。話の内容も面白くて、頻繁に爆笑が起きる。その辺りはずっと大学教授の職にあったせいかと思ったが、教授でも話が面白くない人はわんさかいるので、やはり上手いのだろう。
受賞までの経緯や、メキシコシティーでの授賞式の模様を映写するなどして、いよいよ、上橋作品のルーツともなる子供時代の出来事、作品の背景ともなる数々の経験談等々、様々なツボが満載の話をされたわけだが、詳しいことは書けない。上橋さん曰く、「ネット等で書かれるとニュアンスが間違って伝わる可能性があるので、『ここだけの話』ということで……」ということである。
実にもっともなので、それを尊重することにした。
それでも、影響のないところで二つだけあげるとしたら、「とても遠くにあるものを書こう書こうとしている」という話や、「ずっと作家になりたかったけれど、まだ自分はその器ではない」と思ったエピソードだろうか。ひどく共感したので、うんうんと腹の中で頷いた。
最後に質疑応答の時間があり、質問したいこともあったけれど、気が小さい上に、手を上げても気づかれない確立が高いという星のもとに生まれているため、他の方とのやり取りを聞いて満足することにした。
まったく、上質な時間を過ごすとは、このようなことを言うのだろう。
今月下旬に、東大でまた講演会があるようだ。
ご興味のある方には是非勧めたい。