さしあたっての目標
サンドワームの外殻は結構高値で売れた、と思う。
こっちの相場はよく分からないけれど、ルクスの満足そうな表情を見ればそれなりの値段だったことは想像に難くない。
『………………』
お財布事情があったまったところであたしは手袋とブーツ、そして仮面を買うように要求した。
今度は絵に描いたのではなく、売っていそうな店にルクスを引っ張り込んでから指さした。
無言で『買え』の意思表示。
街中をうろつかせるには必要な装備だったのでルクスも買い渋ることはなかった。
仮面の方もフードを目深にかぶっていれば大丈夫だが、それだと前方の視界が確保できないので不安なのだ。
こうしてあたしはマントと手袋とブーツと仮面をゲットした。
何となく人間らしい装備になったのでちょっぴり気分がいい。
それからルクスは自分用の酒と食事を購入し、宿を取るべくホテル街へと向かった。
建物の中に入り、チェックインを済ませようとする。
「個室一部屋頼む」
「お一人様ですか?」
「ああ」
「ですが、あの、そちらの方は……」
宿の従業員があたしに視線を移す。
「ああ、あいつは床にでも転がしておくから問題ない」
『………………』
げしいっ!
「ぐはっ!」
今回は尻を蹴飛ばしておいた。
厚底ブーツを履いていた分威力も増していた。
「な、何をする!」
尻をさすりながら涙目で怒鳴るマイマスター。
いくらなんでも女の子相手に床に転がしておくのは無いと思うのですよ。
分かる?
分からないならもう一発蹴るよ?
今度は尻の真ん中につま先を食い込ませて新世界を垣間見せるよ?
「……ベッドがいるのか?」
『………………』
こくん。
当然、いるに決まっている。
というか自分だけベッドとか何様のつもりよ。
「分かった」
盛大な溜め息と共にルクスはツインの部屋に変更してくれた。
これでベッドは確保した。
やっぱり寝床は大事だよね。
案内された部屋に入ったあたし達はようやく一段落ついた。
……と、言いたいところなのだけど。
「留守番よろしくな。俺は飲みに行ってくる」
『………………』
さっさと休めばいいのに、また出かけるつもりらしい。
止める理由も別にないのであたしは頷いて見送ることにした。
『………………』
ルクスが出て行った部屋を観察する。
異世界だけどごく普通のホテルだった。
強いて言うなら電化製品がないのが不満。
テレビも電話も空調もない。
灯りは魔法があるから問題ないけれど冷蔵庫がないのが痛いね。
……って、今のあたしは食べ物も飲み物も関係ないからあんまり意味ないけど。
それ以前の問題として温度変化も意味がない。
やれやれ。変な身体になっちゃったなぁ。
死んだと思ったら異世界で、生まれ変わったと思ったら骨で、とことんついてない今日この頃だと思うけれど。
まあ現状を嘆いても仕方がない。
出来ることをやらなければ。
さしあたっての目標は二つ。
一つ目はボディーゲット!
やっぱり恋がしたいのよ女の子としては!
その為には骨ではなく肉体をゲットしないとね!
だからどうにかしてあたしと結びついている英雄の骨から解放される方法をルクスに探して貰わないと。
その後は生まれ変わるにしろどうなるにしろ運任せになるだろう。
魔法が使える異世界ならホムンクルス技術とかないかなぁ。
ある程度成長した身体が手に入ると非常に都合が良かったりするんだけど。
そして二つ目は喋れるようになること。
これに関しては魔法的技術で何とかなるような予感がある。
喋れるようになればルクスに詳しい質問が出来るし、要求も通しやすくなる。
あのちょっぴり残念な中身に対しても調教しやすくなるし、喋れるようになることは結構な急務だね。
これら二つの希望を叶えるために何をするべきか。
まずはそこから考えないとね。
あたしは早速行動を開始した。