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第一声が……

 シャーレッド城は不思議な場所だった。

 城の背後には綺麗な海があり、正面は森囲まれている。

 光の差さない空からは緑と淡い赤、そして白の入り混じったオーロラが降り注いでいる。

 月が出る時間はまだ遠く、淡い光に包まれた空はシャーレッドをそっと照らしている。

 海からは青い光が見える。

 あの中には大量のウミホタルが棲息しているらしく、一年を通して闇に包まれたシャーレッドを照らしてくれる貴重な光源らしい。

「なんっていうか、幻想的な場所ですよね……」

 転移ゲートを通った際に一度は眺めているのだが、改めて目にすると新しい感動がある。

 特に海側は城の中に案内されないと見ることができなかったので、バルコニーに出た途端、食い入るように見つめているのだった。

「ウミホタルを見るのは初めてかな?」

 アマロットが問いかけてくる。

 今はアマロットと二人きりだった。

 ルクスは城についたと同時に、ゼータが何処かへ連れて行ってしまった。

 どうやら二つ目の依頼に関係しているらしい。

 昔馴染みの依頼を断る理由もないのでルクスはおとなしくついて行った。

 その間の話し相手がこの第二王子様というわけだ。

「そうですね。こうして目にするのは初めてです。写真では見たことがあるんですけど、綺麗ですね」

「シャシン?」

「ああ、なんでもないです」

 首をかしげるアマロットに慌てて両手を振ってごまかしておく。

 どうやらこの世界に『カメラ』や『写真』などの技術はないらしい。

 ……もしかしたらアイオーンにならあるかもしれないけど。

「ふふ。シャーレッド城の景色は我が国の自慢の一つでもある。客人に喜んでもらえたのならなによりだ」

「?」

 そう言って肩を抱いてくるアマロット。

 気安い態度だなあと思ったけど、まあ肩ぐらいなら目くじらを立てるほどでもないかと好きにさせておく。

 相手が美形なら大抵の無礼は許せる。

 美形じゃなかったらぶっ飛ばしてるけど。

「君はルーファクルスの使い魔ではないね? どういう関係か訊いてもいいかな?」

「どういう関係も何も、実際的には使い魔と変わらないですよ。もともとはルクスの死霊魔法で復活させられたスケルトンですし」

「その割には明確な意志を持っている。普通、死霊魔法で復活させられた使い魔は自由意思など持っていないはずだ」

「まあそこは色々と厄介な事情があるんです。そのあたりはあまり詮索しないでもらえると助かります」

「言いたくないこと、かな?」

「プライバシーに関わることですし」

「なるほど。確かにこれ以上は無粋だな。では無粋ついでにもう一つ。君とルーファクルスは恋人関係だったりする?」

「今のところは違いますね」

「今のところは? 将来的には分からないということかな?」

「まあそんなところです。あたし自身、ルクスのことは嫌いじゃないですし、付き合いが長くなれば情も深まるかもしれない、みたいな感じです。今のところは気の合う友達、っていうのがしっくりくる表現ですかね」

「なるほど」

「ルクスとは子供の時に知り合ったんですか?」

 あたしは少しばかり気になることを質問してみた。

 この人がルクスの知り合いなら、知り合ったのはルクスが王子だった頃のはずだ。

 そのあたりのことを訊いてみたかった。

「ああ。小さなルーファクルスがクラナディスからの短期交流を名目にやってきたのはもう十年以上前のことだ。その時に友達になった」

「友達、ですか」

「向こうはそう思っていないかもしれないけどな」

「ですねえ。友達がいそうな感じには見えませんし」

「ふふ」

「?」

 いきなり笑い出したアマロットにあたしは首をかしげる。

 どうして笑われたのかが分からない。

「いや、すまない。馬鹿にしたわけじゃない。ただ、短い付き合いの中でも、君はルーファクルスをよく理解しているのだなと思って」

「………………」

「君がルーファクルスを理解しているということは、ルーファクルスも同じぐらい君を理解しているということだろう? 深い信頼関係で結ばれているということだ」

「そりゃあ信頼はしてますよ。大事な仲間ですし」

「あのルーファクルスに対してそんなことを言える存在がいたというのが驚きだ」

「なるほど……」

 生きている人間を信用しない、というるクスの信条を、この人はよく理解しているようだ。

「もしかしてルクスが昔、興味本位で血を吸わせた吸血鬼ってあなたのことですか?」

「そんなことまで話していたのか。その通りだ。王族の血と一般人の血でどれほどの差があるのかなと思ったんだが……」

「差がありました?」

「それが、さっぱり分からなかった」

「……分からなかったんですか?」

 差なんて全くなかった。人間の血はみんな同じ味なのだという答えならまだ分かる。

 しかし『分からなかった』というのは不思議な答えだった。

「俺は吸血が趣味でね。他にも色々な人間の血を吸わせてもらっている」

「……物騒ですねぇ」

「そんなことはない。危害を加えるつもりはないし、嫌がる相手に無理強いをした覚えもない。報酬も渡しているし、きちんと相手の了承もとっている。何の問題もないだろう」

「まあ、それなら」

「それに俺に血を吸われると気持ちがいいらしいぞ。特に女性は」

「そうですか……」

 それは血を吸われるのが気持ちいいのではなく、美形に血を吸われているから気持ちがいいという精神的な快感なのでは? とちょっと疑ったけれど口には出さない。

 あたしにだってそのぐらいの分別はある。

 相手は王子様なのだから、あまり失礼があってもいけない。

 元おーじ様は論外だけどね。

「その中でもルーファクルスの血は特に美味しかった。王族の血はルーファクルス以外吸ったことがないからな。王族だからなのか、それともルーファクルスだからなのか、それが未だに分からない。さっき吸わせてもらった血もすごく美味だったしなあ」

 しみじみと言う吸血鬼。

 自分の血が美味しいと言われて、ルクスはどんな気分になるんだろう。

 まさか嬉しいとは思わないだろうし、複雑な気分になるのかなぁ。

「君の血も実にうまそうだが、今は吸える状態ではなさそうだしな」

 幻術で姿を変えていても、本当のところは骨なのだ。

 血肉を持たないのだから血も吸わせられない。

「仮にあたしが肉体を持っていたとしても、血を吸わせてあげるつもりはありませんけどね」

「そうなのか? 実に残念だ」

 本気で残念そうに言わないで欲しい。

「特別な相手の血が欲しいならまだしも、グルメの一つとして吸われるのはごめん被ります」

「確かに、あらゆる血を味わうのが楽しみの一つではあるが。もったいないなぁ。すごく美味しそうなんだけどなぁ」

「………………」

 しみじみと言わないで欲しい。


「というか俺の了承も得ずに勝手なことを言わないでもらおうか」

 そんなやりとりをしていると、ルクスがようやく戻ってきてくれた。

 戻ってきてくれたのだが……

「ル、ルクス……?」

 そこにいたのはルクスであってルクスではなかった。

「………………」

 ものすごく不機嫌そうなルクス(らしきもの)と、実にしれっとした様子でその背後に控えているゼータがいる。

「おー、似合ってるじゃないか。さすがはルーファクルス。オレの見立ては確かだったな!」

 ぱちぱちと拍手するアマロット。

 目の前にいるルクスはものすごく不機嫌そうだった。

 なぜなら……

「び、美人だねぇ、ルクス」

「第一声がそれかっ!」

 ルクスさんってば女装しているんですよ!?

 サラサラの銀髪は綺麗に結い上げられ、アクセサリーで飾り付けられている。

 衣服もいつもの黒地コートではなく、真っ白なドレスを着せられていた。

 ところどころに紅い薔薇の刺繍があり、金粉を散らされている。

 動くたびに散らされた金粉が舞い散って、ルクス自身が輝いているようだった。

 しかも胸の詰め物が圧倒的で、エレさんにも負けないほどの巨乳を誇っている。

 偽物だと分かっていても、

「も、揉んでいい?」

 と尋ねてしまうぐらいだ。

「しばくぞコラ」

「ちょっとだけ! ほんのひと揉みだけだから!」

「させるか馬鹿!」

 というようなひと悶着があったりなかったり。

 結局揉ませてはもらえなかった。

 理由はドレスが乱れるから。

 そう言われては引き下がるしかない。

 高そうなドレスだし、暴れられて台無しにしては弁償不可能だ。


先月に引き続きファンタジー大賞に参加しましたにゃん。

気に入ってもらえたら清き一票プリーズなのです(*^_^*)

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