吸血鬼の国へ行こう
「吸血鬼の国?」
「ああ。そういう国もあるぞ。ある意味でノーラーフキングに一番近い一族だな、あいつらは」
アイオーンのレストランでステーキを切り分けながらルクスが教えてくれた。
星空も堪能したので、今はアイオーン都市部の宿に拠点を移している。
これだけの街だと宿屋というよりはもうホテルと表現するべきなのかもしれないけど。
先進国家を堪能しつつ、とりあえずは次の予定を立てようということになった。
急ぎの目的があるわけではないので、本当に気の向くままに旅をするという感じなのだ。
だから確固たる目的地もなく、次はどこに行きたいか、という話になってくる。
そうなるとルクスよりもあたしの意見が優先される。
ルクスはこの世界のことをよく知っているけど、あたしはまだ知らないことのほうが多い。
好奇心の赴くままに、いろいろな場所に行ってみたいと思っている。
そしてルクスが教えてくれた吸血鬼の話題は、もちろんあたしの興味を引くには十分な話題だった。
「吸血鬼って、血を吸う鬼だよね? 危ない種族じゃないの?」
「はぐれ吸血鬼は物騒らしいな。でも国内にいる吸血鬼は大人しいものだ。覚醒時の吸血衝動さえ乗り切れば、あとは比較的大人しい種族だ。国家間の交流もあるしな」
「そうなんだ……」
吸血鬼といえば吸血衝動、みたいな常識があたしの中にはあるけれど、それはどうやら最初の方だけらしい。
吸血鬼そのものは比較的温厚な種族なんだとか。
「一般の吸血鬼にとって、吸血行為とは娯楽のようなものらしいぞ」
「微妙な娯楽だねぇ」
「俺も一度吸われたことがある」
「マジで!?」
「吸血鬼に血を吸われるというのは一体どのような気分なのだろう、という興味本位でな。吸血鬼の国に訪れたとき、吸わせてもらいたいと言われたから吸わせてやった」
「………………」
その程度のことで血を吸わせてやる神経が信じられない。
吸血鬼に対する認識の差なのかもしれないけど、それにしたって神経ぶっといにも程があるよね。
「じゃあ次は吸血鬼の国に行ってみようか」
「そう言うだろうと思った。俺は構わないが、当分陽の光は浴びられないことを覚悟しておけよ」
「あ、やっぱり吸血鬼なだけにお日様は苦手なんだ」
「当然だ。第五十層シャーレッドは別名『霧の国』とも言われていてな。ほぼ一年中霧に覆われた国だ」
「へえ。まったく太陽が差し込まない場所で、一体どうやって作物を育ててるんだろう?」
「育ててはいない。そもそも吸血鬼に普通の食事は必要ない」
「そうなんだ。じゃあ栄養源は……まさか血液?」
でも吸血衝動は無いって言ってたし。
じゃあ任意?
献血吸血?
「観光客に頼み込んで吸わせてもらうこともあるが、多くは月の光を栄養源にしているらしいぞ」
「ああ、なるほど。あれ? でも霧に覆われた国で月の光って地上まで届くものなの?」
「夜だけは霧を晴らすらしい」
「晴らすって、自由自在なの?」
「魔法の霧らしいからな。王族が魔法で霧を発生させたり消したりしている、と以前聞いたことがある」
「ふーん。便利そうだね」
「そうでもないだろう。吸血鬼の王族は、霧を自在に操る代わりに、ほかの魔法が一切使えないらしいからな」
「そうなの?」
「ああ。自然に、世界に干渉するということは、それだけ大きな力と制約が必要になる。シャーレッドの王族は、そのための制約としてほかの魔法を使うことを封じられている」
「不便なんだねぇ」
「だからこそシャーレッド王家は国民から絶大なる尊敬と信頼を集めている」
「それはそうだろうねぇ。ふむふむ。霧の国か。ちょっと楽しみだね」
「では次の目的地はそこで決定だな」
「らじゃー!」
勢いよく手を振り上げたところで、ルクスがじろりと睨みつけてきた。
「?」
「行くのはいいがひとつだけ覚悟しておけよ」
「何が?」
「さっきも言った通り、シャーレッドは霧の国だ。住民は吸血鬼。栄養源は月の光」
「う、うん」
「つまり、食料がない」
「っ!!」
大問題だった。
覚悟を問われるほどの大問題だった!
おなかがくうくうなりました!
「食料の持ち込みは可能だが、調理器具もないから保存食に限られる」
「う」
「さらにレストランの数も限られているし、土地柄、そこまで凝ったものは出してもらえない。つまり、シャーレッドにいる間はまともな食べ物にありつけないと考えたほうがいいだろう。自炊しようにも食材が売っていないからな」
「うぅ……」
それは大問題だった。
最近は食べることが本当に娯楽と化しているあたしにとって、ものが食べられないというのは本気の本気で大問題だった。
だけどその状況ならルクスの食料が優先される。
魔力供給さえあれば食べなくても問題ないあたしよりも、食べなければ餓死してしまうルクスの方が深刻だ。
「長期滞在は難しそうだね……」
「まあな。短期滞在で楽しむ分には問題ないと思うが。それでも行くか?」
「う~~~ん……」
あたしは腕を組んでかなり悩んだ。
シャーレッドには行ってみたい。
霧の国というのにも興味があるし、吸血鬼という存在にも是非会ってみたい。
ルクスと違って吸われる血が存在しないので、吸血体験はできないかもしれないが、それでも吸血鬼には大いに興味がある。
たっぷり十分ほど悩んでから、あたしは決めた。
「行く! 食べ物は我慢する!」
「その言葉、忘れるなよ」
「わ、忘れないよ。多分……」
「多分かよ……」
こうして、次の目的地は第五十層シャーレッドになるのだった。




