骨!?
あたしは死んだ。
あんまり美形じゃない、あたしに告白して振られた男子生徒に殺されて。
それにしたって酷い死に方だと思う。
何も電車に撥ねさせてミンチにすることはないだろう。
あれじゃあ原型も残らない。
というか傍にいた梅雨には軽くないトラウマを植え付けてしまったんじゃないだろうか。
おのれ美形じゃない男子生徒め。
絶対に復讐してやるぞ。
さしあたっては百日ほど夢枕に立って呪いの夢を見せてやる。
……とまあこんな感じであたしは死後の復讐計画を立てているのだった。
死んだ後も意識があるということは幽霊化には成功しているらしい。
ならばレッツ復讐。
いざリベンジ。
と意気込んでいたのだが。
『………………』
あたしは自分が幽霊になっているわけではないことに気付いてしまった。
というか、何この身体。
カタカタと音を立てたあたしの身体を確認すると、骨だった。
……って、骨!?
あたしは顔の前に掲げた自分の両手が間違いなく骨であることを認識する。
ぺたぺたと触って撫で回しても骨以外のナニモノでもない。
肉がない!
『っ!!??』
何これ!?
骨人間!?
いやスケルトン!?
何であたしがそんなものになってんの!?
死んで化けて出たにしてもあたしの身体は電車にくちゃっとやられてバラバラ死体になっている筈だからこんな骨ボディーが形成されるわけもないし!
っていうかマジでどうなってんの!?
いやああああああっ!
「いや、待てよ」
と、あたしが半ば錯乱していると、美しい声が耳に届いた。
……今のあたしに耳があるかどうかは不明だけれど、とにかく声は聞こえる。
男の人の声だった。
「試してみるか」
何やら考え込んでいるようだった。
それにしてもいい声だ。
色っぽいし、艶っぽい。
男の人の声でここまでとろんとなるのは初めてかもしれない。
「お手」
『………………』
でも言っていることが最悪だった。
お手って……あたしは犬ですか!?
と言いつつも声が素敵だったのでとりあえず従っておく。
あたしは骨の手をぽん、と男の人の手のひらに載せた。
「……まあ、成功ということにしておくか」
男の人はそう言った。
っていうか、美形じゃんっ!
声を聞いたときから何となくそうは思っていたけどマジで美形じゃん!?
ウチの両親以上の美形だよ!?
何この芸術品!
死んでから運命の出逢い的なものを果たしたってこと!?
いやでも死んだら意味ないし!
っていうか今のあたし骨だしっ!
「今からお前は俺のものだ。しっかり働けよ」
そしてあたしの葛藤はこの一言で霧散した。
骨の手を握り返され、痺れるようないい声で命令されたのだ。
思わずこくんと頷いてしまった。
状況はどうあれこんな美形を逃す手はない。
あたしの骨っちんぐな状況は差し置いて、とりあえずこの人の傍にいることを今は優先させよう。
っていうか『お前は俺のもの』って告白?
告白だったらいいのになー。
まあ違うっていうのは何となく分かってるけど。
「よし。ならばお前は今から『骨一号』だ。うん。我ながらシンプルでいい名前だな。お前も気に入っただろう?」
『……っ!』
気に入るかっ!
いくら美形でも言っていいことと悪いことがある!
あたしには真名っていう立派な名前があるんだからね!
死んでしまったのでその名前が使えないとしても『骨一号』はない。
あんまりだ。
あたしは握られた手を離してそのまま美形の頭を殴った。
美形なので顔は殴らない。
美形を損なったらそれこそ大変だ。
あ、腹を殴ればよかったのかな?
まあいいか。美形さえ崩れなければ。
「ぐおおっ!」
美形さんはそのまま蹲って呻いた。
恨みの一撃思い知れ。
「もしかして、名前が気に入らないのか?」
どうやらあたしの意図は伝わったらしい。
こくんと頷いておく。
喋ることは出来ないが、意志疎通にはあまり困らないっぽい。
美形さんは再び殴られることを警戒しているのか、名前を考えるまでに随分と頭を悩ませてくれていた。
あたしの為に悩む美形。
うーん。なかなか悪くない光景かも。
というかどうしてあたしが骨になっているのか、その辺りの事情も訊かないといけないんだけどなー……。
ま、後回しでいっか。
今は美形を堪能しよう。