魔法都市へ行こう
「魔法都市へ行くぞ」
指名依頼も片付いてセルカ精肉店から無事に……あんまり無事じゃなかった干し肉を受け取ったルクスがそう言った。
ようやく仕事以外の行動に出ることを決めたらしい。
「前にも言ってたよね。どこにあるのそれ」
「第十六層、キャルヴァリエだ。魔法都市とも言われている」
「魔法ばっかりの街?」
「まあ、そんなところだ」
「いいね。幻術も覚えたいし」
「その前にルティは魔法を使えるのか?」
異世界出身のあたしが魔法を使えない可能性を心配したらしい。
魔力はあってもそれを扱う術というのはなかなか難しいというか、実感しづらいものらしいのだ。
しかしそこはぬかりないと言っておこう。
「あたしだって無駄に日常を過ごしてきた訳じゃないんだからね」
「おお?」
あたしは右手の平……というか骨の平に魔力を集中した。
水のイメージで魔力をかためていくと、一塊の水がそこにあった。
「だいたいこんな感じでしょ? 魔力集中って」
「おお、いつの間にそんなこと出来るようになったんだ?」
ルクスがかなり驚いている。
教えた覚えがないのだから当然だろう。
あたしはマントの中から一冊の本を取り出した。
「じゃじゃーんっ!」
与えられた二割の報酬を消費して購入した本をルクスの前に掲げる。
「なになに……『初心者用魔法教本 ~これで今日から君も魔法師だ!~』? って、子供向けの本じゃねえか」
ちょっと呆れた様子のルクスだった。
「魔法に関しては初心者なんだから当然でしょ。いちから始めようと思ったらこういうものの方がいいかもって思ったの」
「それはまあそうだが……しかしこれは主に五歳児向けの本だぞ」
「……その事については深く考えないようにしている」
実際のところ初心者用教本の大人向けというのもあったのだけれど、分かりやすく、なおかつ優しく、図解付で教えてくれているのはやはり子供向けの教本だったのだ。
だからこのチョイスでオッケーだと自分に言い聞かせる。
「でも分かりやすかったよ」
と、一応主張してみる。
「子供向けの本で分かりにくかったらおつむの構造を疑うところだ」
「ちょっとは褒めようって気はないの!?」
「その本を見るまでは褒めてやりたい気分だったんだが……」
「うぐ……」
自分の行動で褒めてもらえるチャンスを逃してしまったらしい。
ちょー残念。
「で、でもこれのお陰で基本魔法は習得したんだからね!」
そう言ってあたしは水の塊を炎、風、土へと変えていく。
四大元素の基本変化は習得済みだとアピールする。
「確かに短期間で習得したことは褒めても構わないが」
「じゃあ褒めて!」
「偉い偉い」
「頭撫でて!」
「……よしよし」
つるつるの白骨を撫でられた。
まあよしということにしておこう。
「その本の内容はコンプリートしたのか?」
「まあね~」
「だったらもう必要ないだろう?」
「うん」
「古本屋にでも売ってきたらどうだ? 二束三文だが持ち歩くよりはマシだろう?」
「それもそっかー」
という訳であたし達は古本屋へと出向くのだった。
「ありがとうございました~」
古本屋で初心者用教本を売った。
買ったときは三千セルだったけど、売るときは五百セルだった。
買い叩かれてるなあと思いながらも、まあ利益を出そうと思ったらそんなものかもしれないとも思った。
その後はルクスが昼食のパンを購入して、頬張りながら街の中心部にある転移ゲートへと出向く。
転移ゲートはそれぞれの国の中心部、城の中にある。
どうしてそんな場所にあるかというと、やはり使用には制限があるからだろう。
犯罪者の高飛びなどを防ごうと思えば、完全登録制にする他ない。
アクセンティーノの転移ゲートも、城の中にある受付で使用登録を行い、犯罪歴などの審査を終えてから転移することになる。
「そうなると犯罪者の動きがかなり制限されることになるね」
あたしは登録を済ませて待機中であるルクスにそう言った。
「実力の低い犯罪者はそうだろうがな」
「実力派の犯罪者だと違うの? まさか身分の偽装とか?」
「それも可能だが、もっとシンプルな方法がある」
「?」
「転移魔法だよ。大規模な転送は転移ゲートを使うしかないが、あくまでも個人レベルの転移ならば魔法で何とかなる」
「そうなんだ……」
「もっとも、かなりの高位魔法だし、転移できる人数も術者を含めて三人が限度だから、あまり使い勝手のいいものじゃない。大規模な犯罪組織だと転移専門の魔法師を何人も抱えていたりするし、個人でも腕のいい転移魔法師だと犯罪者として活動していたりする」
「ふーん」
「魔力消費も大きいから、後ろめたいところのない奴は大抵転移ゲートを使用するがな」
「無料だもんね~」
手続きが面倒ではあるが、無料というのはとてもありがたい。
「今回は結構際どかったが、まあなんとかなった」
「伯爵かぁ」
「伯爵だな。まったく、貴族は嫌いだ。全滅すればいいのに」
「……物騒なこと言わないの」
本気で貴族を嫌っているらしい。
過去に何があったんだろう。
気になるけど、まだ気軽に訊けるような仲でもないしなぁ。
まあいずれ教えてもらえるよね。
転移の準備が整ったようで、あたし達はゲートへと移動した。
大きな魔法陣の中心に立たされる。
「行き先は第十六層キャルヴァリエでよろしいですか?」
転移ゲートを操作する係員らしき人が最終確認をしてくる。
「ああ。そこで頼む」
「了解しました。ではよい旅を」
魔法陣が光って、あたし達の姿も霞んだ。
「わっ!」
カッ! と一際強く光ったときには既に移動が完了していた。
「………………」
下を見ると、同じ魔法陣があった。
しかし周りの景色が違っていた。
アクセンティーノでは城の壁が全体的に茶色かったが、ここは真っ白い壁だった。
調度品も違っているし、転移には成功したのだろう。
「ここが、キャルヴァリエ?」
「ああ。魔法都市キャルヴァリエだ」
新しい場所へやってきた感動を無視するように、ルクスはそのまま歩き始めた。
もう少し周りの景色を堪能したかったけれど、置いていかれる訳にもいかないのでちょっと不満になりながらもルクスについていった。
出て行くのにも手続きが必要で、ルクスがそれを済ませる。
あたしに関しては使い魔ということでスルーされているらしい。
思うところが無いわけでもないけれど、まあ楽だからいいかな。
城の外に出てまずびっくりした。
「ぎゃーっ!」
思わずルクスにしがみついてしまう。
何故なら出た瞬間、街が下に見えたのだ。
つまり、キャルヴァリエの城は大地に建造されたものではなく、浮遊城そのものだったのだ。
あと一歩でも踏み出していたら落下していただろう。
そんなあたしの様子を微笑ましそうに見ているルクスがちょっとむかつく。
「初めてここに来た奴はみんな同じような反応をする。ルティも高所恐怖症か?」
「高所恐怖症以前の問題だよ! 普通に怖いよ! 落ちたら死ぬよ!?」
「もう死んでるじゃないか」
「……落としてやろうかしら」
「やめろ」
ルクスはあたしの手を引っ張って別の魔法陣へと案内してくれた。
「キャルヴァリエは魔力素が濃い層だからな。それを利用して浮遊城が造られたんだ。まあ魔法都市らしくていい感じだろう?」
「まあねー。っていうことは城以外にも浮遊建造物が結構あるってこと?」
「あるな。観光名所にもなっている」
「……いつ落ちるか分からないのによくそんなものを作ろうとするよね」
「落ちないだろ。これだけ魔力素が満ちていたら」
「だから、なんらかの事故や環境変化でその魔力素が薄くなったり無くなったりしたら落ちるでしょうが」
「……まあ、そうかもな」
そういう突発的な事故は想定していないらしい。
危機感が薄すぎる。
「まあその辺りは俺達には関係ないし、案外安全策ぐらいはとっているかもしれないぞ。予備魔力ぐらいはあるだろうしな」
「あー。結局先延ばしでしかなさそうだけどねぇ」
施設の予備電源だって新たに供給がなければいずれ尽きてしまうのだから。
「それよりもさっさと街に降りよう」
「その魔法陣で降りるの?」
「その通り。浮遊施設から地上への移動手段は魔法陣による転移魔法がメインだ」
「メインってことは違う方法もあるの?」
「そりゃありゅ……あるだろ」
「噛んだね」
もろ噛んだね。
可愛いけど。
美形が噛むのってイメージ崩れそうだけど、でもルクスには似合うかも。
「うるさい。ここは魔法都市であり、魔法師の人数もそれなりに多い。飛行魔法の訓練の一環として地上と浮遊施設への行き来があったりするんだ。実際飛べる奴は魔法陣を利用しないしな」
「そうなんだ……」
転移に較べて飛行は魔力消費が少ないらしいので、その差なのかもしれない。
「あたしもここを出る頃には飛行魔法ぐらい習得しておこうかな」
せっかくやってきたのだから明確な目標を定めておきたい。
幻術は当然としても、他にもいくつか習得しておきたい魔法をピックアップしておくのもいいかもしれない。
「それがいい。空戦が出来るようになれば戦術の幅も広がるしな」
「空戦って……あたしは飛べるようになればいいなと思っただけで、そこまで高度な目標は定めてないんだけど」
「頑張れ」
「なんでよっ!」
なんかアテにされてる?
というかあたしをアテにする前に自分で頑張れ。
「他にも強化系の魔法を覚えておくと便利だぞ」
「だから! あたしを利用しようとするなっ!」
「お互いに利用すればいいじゃないか。俺はルティを一方的に利用するつもりはないぞ。同じぐらいルティも俺を利用すればいい。それならば対等だろう?」
「む」
確かにそういう関係ならば不満はないのだけれど。
でもルクスを利用しようにもどう扱っていいのかが分からないから困る。
「まあ、考えておく」
本人にやって欲しいことがある訳ではないし、その辺りは追々考えていけばいいだろう。
あたしが利用されてばかりだと感じたら報酬の上乗せを要求するとか、そんな感じかな。
「じゃあ早速図書館っぽいところに行きたいんだけど」
「その前に宿を取ろう」
「あ、そっか」
直前に予約しようとして満室だったら悲惨だしね。
もちろん賛成しておいた。




