日常
「…………」
自動販売機では結局、定番商品のグレープフルーツの果肉入りを買って、カシャカシャ振りながら教室に戻ろうとしたときだ。
階段に脚を掛けようとしたときに視界の端に違和感を感じた。錬次の体は緊張したように硬直して、手に持っていたグレープフルーツの缶も止まり、違和感を感じた場所に視線を向ける。
(何かが通り過ぎたような……)
不安が沸き立つ錬次。
部活動をしている生徒かもしれないが、まだ五時にもなっていない。一人で急いでいる理由が分からないし、違和感を感じた方向は特別棟で教務室とも反対方向に位置する棟だ。
「ちょっと気になるな」
錬次の好奇心はそれほど高いわけではないし、ホラー好きでもない。
だから友人である穂刈が錬次の行動を見たら何かと不安が残るだろう。
特別棟へと脚の向きが変わった錬次はそのまま歩を進める。途中の曲がり角でグレープフルーツの缶を開けて、喉を潤す錬次は時間の無駄遣いと知りながらも歩いていく。
特別棟の教室は主に、保健室、化学室、音楽室、調理室、生徒会室、図書館といった、自分の机だけでは出来ない教科を実技と併せて習う教室がある。
錬次が向かう先、一階は生徒会室や保健室があり、今の時間帯は生徒を含め、教師もいないはずであり、居なかった。
それを確認した錬次は二階へ。ちなみに、グレープフルーツは飲み干し、トイレのゴミ箱に捨てていた。
二階に上がってきた錬次は右側の通路を曲がり、図書館入り口の扉上にある標示板? に視線を上げた。
昼休みに来たときと同じで至って静かな場所だ。
扉に付いている窓ガラスから図書館を覗き込むように手を扉に添えて顔を近づけていく錬次。
何故、彼が一階ではしなかった行動を図書館でしたかというと、昼休みに中西さんがいつも委員会の仕事をするときに使用している机の上に彼女の鞄が置いてあったからに他ならない。
そして、
「…………?」
放課後ということで鍵が掛かっているはずなのに図書館の扉は錬次のちょっとした力で開いた。だが、音は響くことはなく、錬次は興味本意で図書館を見渡した。
錬次以外誰として居ない。中西さんの鞄はあるのに本人は居ない。それなのに積み重ねられている本の山。つい先程まで中西さん――あるいは誰かがいたのかも知れない。
(中西さんは御手洗いかな?)
安易に導き出した解答を呑み込んで、中西さんの鞄に近づいていく錬次。
中西さんの鞄は有名ブランドのスクールバッグで他の女子生徒とは違い、目立ち具合が凄い。
錬次はそれを仲良くなるきっかけとして訊いたところによると他人と同じ物は嫌とのこと。
それでも錬次が鞄に近づけば近づくほど、有名ブランドのそれとは違うマークが浮き彫りになってくる。
「何だよ、これ!?」
錬次はギョッと眼を剥いた。さらに否定し難いものが錬次に突きつけられる。
それはマークでもデザインでもない。ある種の記号。それも中西さんを傷つけるために記された苛めの証拠が描かれていたのだ。
――中西さんを人として見てない愚か者がこの学校にはいるのか……
と、錬次は驚愕と落胆を同時に感じて最終的に哀しみを通り越して怒りが錬次を支配する。
錬次は抑えきれない怒りを固く握り締めた拳に込めて、図書館から一旦教室に戻る。




