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スタート

本格的にスタートするのはこの回からです。


 昼休みに図書館で委員会の仕事をしている中西さんは通常運転で仕事をこなしていた。

「すみません。『雨中の復讐者』って本探しているんですけど、何処にありますか?」

 金色に輝くセミロングヘアーの少女は気さくに話し掛けた。

 中西さんは金髪の彼女に一度微笑み、誰かが借りていないか、横に整理された貸し出しカードをアサリはじめた。

 借りられていなかったのか、今度は流れるようにパソコンのキーボードを打ち始め、十秒もしないうちに図書館に存在していることを確認した中西さんは席を立って、本棚が並ぶ通路へと進んでいく。

「この本棚にあるはずなんだけど……」

 中西さんは所謂ミステリー系の書籍がある本棚を見上げて『雨中の復讐者』なる本を探しはじめた。金髪の彼女もそれに習い、本に視線を追っている。

「……もしかしたら、今誰かが読んでいるかも」

 目的の本が無いと分かった中西さんは、金髪の彼女に申し訳なさそうに言う。だが、金髪の彼女は嫌な顔一つせずに「それじゃあ仕方ないね」と言い、翻って中西さんから離れていった。

「錬次君が『雨中の復讐者』を先週返しに来た筈なんだけどな」

 再び貸し出しカードに眼を通し始めた。

 生徒の貸し出しカードを順番に見ていき、錬次の貸し出しカードを見た中西さんの表情は「ほらね」といった顔をしており、その証拠に中西さん直々の印字が押されていた。

「う~ん」

 腑に落ちない様子の中西さんは、貸し出しカードから視線を上げて図書館を見回し始めた。

 読書の秋ということもあって、生徒は夏休み前と比べると利用者は増えている。

「まぁ、貸し出されてはいないわけだし、大丈夫よ」

 そう自分に言い聞かせて仕事に精を出す中西さん。

 山済みになっている書類に眼を通して、パソコンに本題を打ち込んでいく。

(最近授業で使う資料が多くなったとホームルームで先生が言っていたから、その整理だろう)

 中西さんは黙々とこなしている。


 そして、昼休み終了五分前。

 再び中西さんに話し掛けようとしている生徒がいた。金髪の彼女とは違い、爽やかな印象がある短髪の彼は、オドオドと周りに不信感を抱かせる行動をしている。その原因は後ろ手に持った分厚い本も含まれているように見える。

 最初は気付かなかった中西さんがふと顔を上げ、短髪の彼に向かって微笑んだ。

「君は確か~」

「穂刈です!」

 中西さんが彼の名前を口にする前に短髪の彼は自ら仰々しく名乗った。

「穂刈君、それで私に何か?」

 小首を傾げながら、微笑む中西さんは穂刈の顔を見つめて次の言葉を待っている様子だが、穂刈は口をパクパクと開閉させるだけで言葉を音として発せていない。

「…………実は――」

 やっとのことで話し掛けたと思った矢先に昼休み終了のチャイムが鳴り始めて、穂刈の言葉は欠き消えた。

「……これが教壇の上にあったんだ」

 チャイムが鳴り終わり、穂刈は後ろ手に持っていた本だけでも何とかしようと思ったのか、強引にそれを中西さんに手渡した。言い方を変えれば、押し付けた。

「あ、ありがとう、穂刈君。助かるよ」

 両手で受け取った中西さんは、感謝の意を示しながら、どんな本かな、と見下ろした。

 本のタイトルは『雨中の復讐者』

 錬次が先週の内に返しに来た本で、つい先程、金髪の彼女が読みたかった本だ。

「返したからな」

「…………」

 中西さんは本に魅せられているかのように視線は動かなかった。正確には『天』と呼ばれる日焼けのしやすい箇所に水色の付箋が飛び出ており、栞の代わりのように貼ってあるからだ。

「穂刈君、これって元から貼ってあった? ……ってあれ?」

 漸く、顔を穂刈に向けた中西さんだったが、中西さんの目の前から穂刈は既に居なくなり、図書館を出ようとする生徒で出入り口は混雑した。

 中西さんに不信感を抱かれたようだが、穂刈が彼女に『雨中の復讐者』を渡せたことに安堵した錬次は緊張の糸が途切れたように他の生徒に紛れて図書館をあとにする。

読んでくれて有り難う。

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