ストーリー
えーとですね。本来は一つの短編なのですが、文字数が多くなったのできりのいいところで分けました。ぜひ最後までお願いします。
長編ミステリー。
『雨中の復讐者』からの引用。四八ページ第一章より。
特別棟の二階に上がる階段で、わき腹から血を流す少女と出会う。
学校に侵入した犯人に殺られたのだろう。金の前髪から覗く、生を感じられない瞳からは透明な雫が流れたあとがあり、彼女が何を思い、亡くなったのか、考えただけで胸が締め付けられる。
千藤は彼女に近づき、そっと瞳を閉じさせる。
「……助けられなくてゴメン……」
千藤が彼女のしてあげられることはそれしか出来なかった。
「…………」
彼女の肌はウェディングドレスのように白く、雪のように冷たかった。
彼女は犯人の気配を僅かに感じて、必死に二階へ逃げようとしたのだろうが、しかし時すでに遅し、と周りに拡がる血の海を観れば判断出来る。
「二階へ逃げた……?」
千藤は金髪の彼女から視線を上げて震える脚に鞭を入れ、立ち上がる。
階段にポタポタ滴ってできた彼女の血が、犯人の居場所へと案内させてくれるだろう。
血の間隔は狭めで歩行がゆっくりだということも判る。
――もしかしたら、犯人も怪我を負っているかも知れない、と千藤は思った。
千藤を導く赤い斑点は化学室の教室に向かっていた。
廊下は人の気配が無く、千藤の足音と乱れる呼吸が耳を刺激して、身体中から滲み出てくる汗を拭いながら犯人と接触するために進んでいく。
そして犯人がいるであろう教室を千藤は見つけ出した。
ある教室へと繋がっているように赤い血の斑点が出来ている。
教室の扉から覗ける窓は黒いスプレーか何かで黒く塗り潰されていて中の様子は確認出来ないが、錆びた鉄のような臭いが鼻につく。
それが千藤には血の臭気だと無意識に感じ取り、扉を開けることを躊躇ってしまう。
「…………」
教室の中は人の気配はあるのに物静かなのも千藤の脚を止めている理由の一つだ。
それでも勇気を振り絞って扉に手を掛けた千藤は不安を捨てるように勢いよく扉を開けた。
「――っ!!」
しかし千藤は物を言わさぬ速さで扉を閉めた。続けて背中を壁に預けながら、座り込む千藤。
まともに声も出せずに肩で荒い呼吸を繰り返す千藤は脳裏で先程の地獄のような現場を再生させた。
「死ぬ、俺」
そう思わずにはいられなかった。
先ずは、錆びた鉄の臭いだと思っていたのは人の鮮血だった。それも固まり具合から見ると一時間も経っていないはずであった。
次に倒れている生徒。此方は女子生徒と男子生徒が一人ずつ刃物で刺されていた。どちらも腹部を一刺しで殺めたのだ。
千藤は可笑しくなりそうな頭を抱えて踞り、少しでも現実を否定しようとブツブツと呟き始めた。それは自己防衛本能から来る、助けを求める懇願か、はてさて、壊れてしまった狂気から来るものか。
どちらでも千藤はこれ以上動けなかった。
すると、コツコツと床を踏み締めて来る足音が千藤に近づいて来た。
恋人を殺された復讐も果たせずに自分を守ることも出来ずにその時がやってきた。
「四人目」
千藤に甘い声が掛かるが、甘いだけでなく、鋭利な刃物のような冷たさも感じられる声に身震いさせる。
(……あれ? 今なんと言った?)
千藤は犯人に刃物ですぐに殺されるかと、ある種の諦めをしていたのだが、犯人の声を訊き、一瞬にせよ、千藤の頭は違和感で冴え渡った。
「……四人目って……」
訊かずにはいられなかった千藤は目の前に立つ犯人に向けて顔をゆっくりと上げた。その時――、
千藤の頸動脈から噴水のような鮮血が迸るように溢れ出て来る。
辺り一面に広がっていく血はまるで雨が降っているに見えた。
それでも最期の瞬間、千藤はナイフを手にした犯人を捉えた。
(お前は……っ!)
千藤の目の前に立つ犯人は長い金髪を返り血で赤く染め、千藤を蔑む眼差しで見下ろしてくる。
「皆死ねば、私が助かる」
犯人は翻り、わき腹の傷を少しでも癒すため、保健室に脚を向ける。
引用終わり。




