伍 pine after shine
注意!PG-12!
*このお話には一部暴力描写、生々しい死体の描写がありますので自己責任の下でお読みください。読んでからの苦情は一切受け付けられませんのでご了承くださいませ。
見たことのない木々が生い茂る森をひたすら歩く。
深い黒の衣に羽織るのは同じ色のマントで、その肩には青い糸が散り散りになってほつれている。明るい太陽の下で映える金の髪に、濃い茶の双眸。
白い箱を大事そうに何度も抱え直しながら、カルサは山道を登る。
先のほうに光が見えた。そして視界が開ける。
青々しい草原の中にぽつんと一軒、レンガ造りの家が建っていた。
「やっと着いたぞ」
カルサは箱に向かって声をかけ、家へ向かった。
脇には澄んだ小川が流れ、壁に付けられた水車が回っている。外壁に貼り付けられた陶器やガラスの破片が太陽光を反射してきらきらと光る。こんな家をカルサは見たことがなかった。
心なしか緊張して扉をコンコンと叩くと、中から声がしてそれは開いた。
出てきたのはまだ年の頃は自分よりも上であろうが、まだ少女っぽさが抜けない女だ。
まるで朝日のように美しい髪は緩やかに波打つその色はオレンジ。大きな瞳は光の加減で金のように見える。整った顔立ちの美しい人だ。長い手足はゆったりとしたローブで隠されてはいるが、布の上からでも細いことが分かる。
「何の御用でしょう?」
ふわりとした笑みで問われ、カルサはハッとする。見惚れてしまっていた。
「あの、俺っ、カルサ・ヘルデと言います。あの、アーリファエル・エメルフィードさまはいらっしゃいますか」
「はい、おりますよ。少々お待ちください」
彼女はその場で振り返り、家の奥に向かって声を上げた。
「お師匠様ーっ。お客さんですよ!」
少しして現れた人物を見てカルサは目を見張る。白い髪は大腿の付け根まで流され、額には銀のサークレットをしている。色取り取りの刺繍が施された衣を身に纏った彼は、温和な顔立ちをしていた。
想像していたよりもはるかに若い。
「こちらの方です」
オレンジの髪の女に紹介され、カルサは慌てて頭を下げる。
「カルサ・ヘルデです」
「はい。アーリファエル・エメルフィードです」
その表情は柔和な笑顔。カルサは本人だと確信する。
「あの、これ…」
上着の内から手紙を取り出し、箱の上に置いて一緒に差し出した。
受け取ったアーリファエルの表情が変わる。
彼は、信じられないと言った様子で呟いた。
「イリア…」
しばらくしてアーリファエルは軽く頭を振ってカルサを中へ招き入れる。漆塗りの椅子に座るよう促され、カルサは腰を下ろした。アーリファエルも向かい側に座り、オレンジの髪の女に言う。
「フェリス、カルサくんにお茶をお出しして」
返事をしてフェリスと呼ばれた女は奥へ去る。しばらくの間沈黙が流れ、アーリファエルは静かに口を開いた。
「…手を、触らせてもらってもいいかな」
「あ、はい」
包まれた手は温かかった。アーリファエルは細かに呼吸をしながら真剣な面持ちで目を瞑る。
フェリスがそっと茶を運んで来たのが見えた。どうぞ、と言って芳ばしい香りのする紅茶を置き、小さく微笑んで何が何だか分からない様子のカルサに耳打ちをする。
「貴方の過去を見ているのですよ」
そうして再び奥に去って行った。
「…そうか…」
やがてアーリファエルはゆっくりと目を開き、哀しげな笑みを浮かべてカルサを見た。
「カルサくん、本当にありがとう」
そして手紙の封を開き、出てきた二枚の内の一枚を見てカルサに手渡した。
「え?」
「これは君宛みたいだよ」
言われるまま、恐る恐る開く。
白の薄様には見慣れた文字が乱れることなく羅列していた。
カルサへ
まず始めに謝ります。ごめん。
カルサがこれを読む頃にはあたしはもう生きてはいないでしょう。
許してとは言わないけど、分かってほしい。
あたしは、父さんのために仕事をしてきた。父さんがいないのなら、あたしはもう誰の命も奪いたくない。
でも命を拒否すれば殺される。逃げたって、あたしは特徴があるからきっとすぐに捕まってしまう。
だから、どうせ死ぬのなら、意味のある死を迎えようと思ったんだ。
カルサは、あたしのたった一人の大切な人だから。
絶対に護りたかった。
里が崩壊すればカルサを追う者はいないし、もう仕事をする必要はなくなるでしょう?
生きて、生きて、生き抜いて。
好きな場所に行って、好きなことをすると良い。
あたしを、色んなところに連れて行ってよ。
カルサと過ごした三年は、本当に楽しかった。
ありがとう。ごめんね。
イリア




