序
注意!PG-12!
*このお話には一部暴力描写、生々しい死体の描写がありますので自己責任の下でお読みください。読んでからの苦情は一切受け付けられませんのでご了承くださいませ。
錆びた鉄の匂い。
止む気配のない雨の音。
ぬかるんだ足元。
転がる武器の数々。
無数に散った手足。
そして、緋く染まった己の両手。
月 光
月も星も風もない、真っ暗な雨の夜。
そんな中にただ一人、佇む影があった。
深い闇色の短髪に、鈍った刀身の右目と、曇った夜空の左目を持つ少女だ。
まるでその身から光が漏れているのではないかと錯覚するほどに白い肌。それに纏うものは黒い衣と裾の長いマントで、それは雨とその場に転がる死者たちの血とを吸って黒さを増し、とても重そうだ。
表情の無いまま、少女は両手に握る短剣を両足の太腿に括りつけた鞘におさめる。
無惨に切り裂かれた手や足は雨でぬかるんだ土に少しずつ埋められてゆき、胴と切り離された頭は何か悲痛な叫びを刻んでいる。
それらを一瞥すると、少女は身体を反転させて歩き出した。全身に浴びた赤黒い血は歩く度に雨が流し、消してゆく。
黒ばかりのその中で、少女の赤い唇が雨に濡れてつややかに輝き、まるで珠玉のようだ。
一度も振り返ることなく。
歩く速度を変えることもなく。
そのまま、少女は雨夜の闇に消え去った。
* * *
時機は、戦国。
その里には、一人の少女が住んでいた。
天才的な暗殺技術を持つ少女、イリア。
これは、その少女と、少女にまつわる物語。
それは、儚くも愛しい物語。




