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ドラコ  作者: 呉璽立児
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友達

「はぁ……」

 智はふとため息を付く。

 大門島の怪獣災害から丸2日が経った。漁村では予備隊員達という人手もあって瓦礫が少しずつではあるが片付けられていた。

 智は被害の状況を写真に撮り、そして記事となりそうな事をメモに取る。

「本社に戻らないといけないかもしれないなぁ」

 智はそう思う。

 被害状況を電話で伝えることは出来るだろうが、写真を送るには時間が掛かる。第一、言葉伝では被害の重要さがうまく分かってもらえないかもしれない。

 この災害を目の当たりにした自分自身がこの事件を世に伝えなくてはいけない、智はそう感じていた。

「フミさんに会わないと……」

 智がこの島に来た目的――天才科学者、戦争の英雄。そう言われる、永峰文哲と言う少年。この島において一番身近であった文哲が、昨日それほどの人物であるということを河内未樹から聞いた。信じられない……そう思いもした。だが彼の怪行動を照らし合わせて考えると納得する部分もあった。

 文哲はどう思ってるか分からないが、智は文哲のことを尊敬できる人物であり、友人のように思っていた。そんな人物に科学者であるのか問はなくてはならない。そして、未樹の言うとおり文哲の研究は、"怪獣を倒すことが出来るのか"そういったおそらく文哲に都合の悪いことまで聞かなくてはいけなくなるだろう。ここに智の感情が入る余地は無い。怪獣を倒すことが大衆の意見であろうし、亡くなった者達の遺族が求めることであろう。放置すれば怪獣はいずれ大きな都市に現れて、大きな被害を起こすかもしれない。そうならないためにも、怪獣を駆逐する為に文哲の力を借りねばなるまい。目の前に迫りつつある危機、そしてその危機を打開することができるということを皆に伝えること――それが新聞記者である智のすることである。

 智は心に決めた。

 突然ボオーと汽笛が海岸線の方から聞こえてくる。

 智が見れば、2隻の護衛船の内1隻の煙突から煙が上がっているのが見える。船が出港の準備をしているのだ。

「時任!! 」

 智を呼ぶ声が聞こえる。振り返ってみれば、絵梨佳がこちらへと走ってくる。

 そんな彼女の様子はいつも以上に落ち着きが無い。

「こ、これを、文哲さんに……」

 そう一言告げると、智の手に白いハンカチに包まれた物を手渡す。

「頼んだぞ」

 智が何かを話す前に絵梨佳は立ち去ってしまう。絵梨佳は港の方へと駆けていった。

「なんなんだ」

 意味が分からなかった。ただ1つ分かるのは絵梨佳が尋常ではない焦り方をしていたぐらいであろう。

 手渡さられた物は、手紙か何かに見える。ハンカチに包まれているので中身までは見えないが薄い。だが何か小物も一緒に包まれている。

 ポロっとハンカチに包まれていた、小物の方が地面に落ちる。

「これは……」

 智にはコレに見覚えがあった。

 それは玉希が文哲から買ってもらい、嬉しそうに自慢していたあのブドウと花の髪飾りであった。



 文哲は地下の研究室にいた。文哲の出した結論は、これ以上アウターエナジーを知らぬ存ぜぬで通すことが出来ないということであった。アウターエナジーは確かに便利な力である。だが強大すぎる力は争いを生む。

 文哲は、たった今神無島にある実験駆動施設の停止装置を開発し終えた。それはとても簡単(・・)な作りでボタン1つで半径10メートル以内にあるホールを閉じさせるという代物である。ホールさえ閉じてしまえば施設を壊すことは非常に容易である。

 文哲は作業をやり終えたことでなにか肩の荷が下りたような感覚を得る。そして、何か空しさも……。

「これで、オレのやり終える仕事は終わった」

 文哲が大門島に来た目的が実験施設を止めることにあった。この空しさは、それをやり終えたことから来るものかもしれない。

 文哲は家から外に出る。

 心なしか、この作業を終えることに躊躇があったのかもしれない、文哲はそう思う。大門島はいい所であった。

「特にここ最近は楽しかったなぁ」

 玉希に智、絵梨佳……そしてドラコ。その時は楽しいとはちっとも思わなかったが、今はそんなハチャメチャな日常が思い出される。

「フミさーん!!」

 そう文哲を呼ぶ声が、回想される。

「フミさん!!」

 それは幻聴でなく、実際に智が文哲に向かって駆けてくる様子が見て取れる。

「何しに来やがった」

 面白くなさそうに、文哲はそう言う。

「フミさん、こ、これ、絵梨佳さんが渡してくれって……」

 そういって智はハンカチに包まれた手紙を手渡す。

 文哲は包まれていた手紙を開く。

「…………」

 そこには短くとも達筆な字でこう書かれていた。

『未樹が、玉希を誘拐した――』

と、

「それとコレも……」

 そういって智は、文哲の手に小物を手渡す。

 それはブドウと花と髪飾り。


『ほれ、動くなよ』

『これでいいか』

『あ、ありがとう』

『お、おう。用が済んだら行くぞ』

『うん!』


 玉希が嬉しそうに受け取ったあの光景が思い出される。

「あのバカ野郎!!」

 それは未樹へと向けた言葉であった。

 どうやって玉希を連れ出したのかは分からないが未樹がドラコの娘(・・・・・)をこの島から連れ出した。


>>GUWOOOOOO<<


「ふ、フミさん、あれ!! か、怪獣!」

 高い所にある文哲の家からはっきりと見える。黒い剛毛で覆われた怪獣――ドラコが海からヌゥーと顔を出し泳いでいる。

 ただし行く先は、大門島ではない。大門島から沖へと離れるように……。

「あのバカ野郎」

 文哲はもう一度その言葉を呟いた。

 何かを知ってるように感じた智は、文哲に尋ねる。

「どういうことなんですか? その手紙とあの怪獣は関係あるんですか!!」

「おい、船は――予備隊の船はどうした!?」

「さっき1隻出航しましたけど……」

「手遅れか」

 文哲は絶望する。

「いい加減に教えてくださいよ! あなたは何を知ってるんですか」

「アレは――船を追いかけたんだろう……」

「な!!」

 どうなるかは智にも分かる。あのとてつもない力を持つ怪獣が船を襲ったらどうなるか。船の方が早かったら助かるかもしれない……いや、結果はもっと最悪になる。船を追いかけた怪獣がこの国の大都市に上陸するという事態にだ。

 どうして、そんなことを知ってるんだ、智は文哲に対してそう思う。だがそれ以上に言わなくてはいけない言葉がある。そう、目の前に怪獣が現れたのならなおさら――。

「だったらフミさん……。あなたの研究であの化物を倒してください」

 智がその話を持ち出してきた時、文哲は驚いた。もちろん顔には出さない。

「……何のことだ」

 文哲はあくまでシラを切る。

 相手が、ただカマを掛けているだけということもある。

 そうであって欲しい、文哲は切にそう願う。

「フミさんが、戦時中に兵器を作ったということは知ってるんです!」

 智は声を上げて言う。

「このハンカクサイ、オレがか? ハっ、冗談も休み休み言えよ。そんときのオレなんかまだ餓鬼だろうが」

「未樹さんの話を聞いてその言葉で納得することは出来ません。あの船だってフミさんが作ったんでしょう?」

 奇しくも智の言葉は見事に的中していた。

「未樹に会ったのか……」

「ええ、フミさんの話を聞きました」

 文哲の声にはこれ以上騙すことは出来ないという諦めの感情が篭っていた。

「どうしてですか!? どうして、あの兵器(・・)を使ってくれないのですか?」

 その言葉で文哲は憤怒する。

「兵器だと。ああ、その通りただの兵器だ。それをどうして……、よりによって、何故お前がオレに、しかも"アイツ"に対して使えと言う!!」

 文哲がこれほど激しく感情を顕わにしたのは始めてであった。

「フミさんこそどうしてですか。どうして分かってくれないのですか!! このままではこの島以上に人が死ぬかもしれないというのに!」

「そんなことオレの知ったことじゃあない」

 文哲には文哲の、智には智の考えがある。智はこの後に起こる悲劇を回避しようと考えているだけで、文哲はもし使ってしまった後の未来を考えているだけである。

 どちらかといえば、智の考えの方が大衆的だ。文哲の考えは兵器を作ってしまった科学者の考えでしかない。

 口だけであればあまりにも冷徹な文哲に対して智も怒る。興奮のあまり手が出る。

「クッ!」

 文哲の顔に智の拳が当る。

「何しやがる!!」

 文哲も殴り返す。

 互いがお互いの心のうちをさらけ出すように殴りあう。

 智は漁船が沈没した際に我先に救出に行った、その行動力を尊敬していた。だからこそ、そんな文哲が、大衆を見捨てるような発言をしたそのことが信じられなかった。

 文哲は文哲で、自分でも気が付かぬ間に友と呼べる人物が出来ていたとは思わなかった。だからこそ智にアウターエナジーを兵器として使えと言われたことに腹が立ってしまったのであった。

 程なくして2人とも息が切れる。

「どうして……そんなに頑ななんですか……」

「…………」

 文哲は何も語らない。

「このままじゃあ、タマちゃん、絵梨佳さん、未樹さんだって危ないというのに……」

「……お前には……大切な人はいるか?」

 文哲は智の話題には触れず聞く。

「それはいますよ。だって皆友達じゃないですか。それに本島には親だっていますし」

 その友達の括りの中にはもちろん文哲も入っていた。

「そうか……ならばお前の勝ちだ」

 文哲はそう言う。

「名前の知らない誰のためでもない。絵梨佳、未樹そして智、オマエ達の為にオレの研究を使おう」

「へ?」

 質問に答えただけで折れた文哲に、智は拍子抜けする。

 文哲は奇怪な船を持っている。それで追いかければ、そう智は思った。世紀の瞬間の目撃者となれるかも知れない。

「今から行くんですよね、それじゃあ僕も……」

 そう智が言った瞬間だった。

 文哲は護身用に作ったスタンガンを智にあてがった。



 智が目を覚ました時、文哲の家のソファーに寝かされていた。

 そこに文哲の姿はなかった。

「フミさん……?」

 机の上にはボタンが1つだけ付いた装置と手紙が置いてあった。


次回、最終話:永峰文哲

ご期待下さい。

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