泡
三題噺もどき―きゅうひゃくよんじゅうご。
ぱちん。
と、目の前でしゃぼん玉が弾けた。
あぁ、いや、別に。
しゃぼん玉で遊んでいたわけではなく。
「……」
休み時間に、トイレに行きたくなって。
まぁ、当然行くのだけど。
今日は珍しく人が少なくて、ゆっくりとできた。
「……」
それのせいか何か分からないが。
ぼうっとしたまま、手を洗っていて。
「……」
気付いたら、勝手にしゃぼん玉ができていたらしく。
それがふわふわと手元から浮かび上がってきて。
わざわざ見せつけるように目の前で消えた。
「……」
ふと思い出したのは、誰もが知るような童話。
海の世界に住むお姫様が、陸の世界に住む王子様に恋をする話。
美しい声を失ってまでも、恋をしたその人に会いに行った。
結果、泡になって消えた哀れなお姫様。
「……」
あれは、泡か。
しゃぼん玉とはまた違うけれど。
恋に生きて恋に死ぬ……だれもが嫉妬してしまいそうなほどロマンチックな人生だ。
いや、そんな訳はないか。今時、そんな駆け落ちみたいな、そんな人生を棒に振りかねないことを理想とする人なんて、あまりいなさそうだ。
「……」
誰もが、安定を求めて。安心を求めて。安寧を求めて。
波風を立てることを嫌い。荒波に揉まれることを嫌い。
他の誰かを妬みながら。周りに流されて。
気付けば、自分なんてものはなくなって。
「……、」
人が増えてきた。
というか私はいつまでここに居るんだ。
さっさと手を洗い終えて教室に戻ればいいモノを。
「……」
微妙に残っていた泡を洗いながし、軽く髪を整える。
そんな整えるほど長くはないが、所々跳ねているので。
人が少なかったのは、他のクラスの終わりが遅かったから……というか、私のクラスが早めに終わったからだ。そういえばそう。
「……」
あの子にもらった、ハンカチをポケットから取り出し、手をふく。
ミニタオルという方が正確なんだけど、可愛いキャラクターのやつ。
お気に入りだ。あの子にもらったし。
「……」
手を拭きながら廊下に出ると、何やらガヤガヤとしている。
休み時間だし当たり前なんだけど、それ以上にうるさいというか。
音が多い。騒がしいことに変わりはないのだけど、人のざわめきとは違う音が混じっている。
「……、」
何かと思い、廊下に立つ生徒たちが見ている先を見れば。
今日も当然のように雨が降っていた。
授業が終わる直前、までは晴れていたような気がするんだけど……どうせこの雨もすぐ止むだろう。たいした問題ではない。
「……」
休み時間というのは、短くて窮屈だ。
あの子のところにも行けないし、早く昼休みにならないだろうか。
今日この時間は確か……体育かな。
「――!」
思いだした矢先に、後ろから声がかかる。
それはもちろん、あの子の声で。
私を呼び捨てにするのは、そもそもあの子しかいない。
「体育外だったの?」
「そーギリ濡れたw」
体育服から制服に着替えてはいるものの、ポニーテールに結ばれた髪は所々濡れている。
タオルで拭いたんだろうけど、直前だったのかどこかしっとりとしている。
綺麗な黒髪をしているから、目立つんだろうか。
「どんまいw」
「ホント最悪w」
そのまま、あの子の教室まで一緒に行って。
男子生徒が着替え終わるまで廊下で一緒に待っていた。
チャイムが鳴るギリギリでまた昼休みにと。
「……」
後2時間。
なんとか頑張れそうだ。
お題:しゃぼん玉・嫉妬・雨




