第5話 ハコちゃんのマイ・ウェイ
ハコちゃんが通っている音楽教室の先生、加山先生のグランドピアノの上に、1枚の古い写真が立派な額に入れて置いてあった。
写真に写っているのは、1人のおばさんとブリキのロボット、ライオンの着ぐるみに藁の案山子。それに、隣りのおじさんは誰なのだろう。
笑顔で写る5人の写真の下半分に、黒いマジックでメッセージが手書きされていた。
「I will go my way over the rainbow.」
この意味を先生に聞いてみたい気がするけれど、厳しいレッスンの時間中は、レッスン以外のことを質問できる雰囲気ではなかった。
それに、ハコちゃんのレッスンの終わり頃にはもう次の子が来ていて、先生は休憩時間も取らずに教えていたから、レッスンの後にも聞くような時間はなかった。
ハコちゃんは、先生がピアノから離れた隙に携帯で写真を撮ることにした。
夕食のあと、タカシさんに洗い物をまかせて玄関で靴にクリームを塗っていたコズエさんに、ハコちゃんが質問しに来た。
「ねえ、お母さん、この写真、わかる?」
何が始まったのかと、水槽の住民一同が興味津々にガラスの壁に集まる。
「う〜ん、こっちは『オズの魔法使』のメンバーよね?
ということは、この真ん中の女性は、きっと『Over the Rainbow』を歌っていたジュディ・ガーランドね。
そうなら、このメッセージの後ろ半分が主題歌のタイトルと一致する。
ということは、この男の人は、、、メッセージの真ん中の『My Way』を歌っていたフランク・シナトラね!」
「あたし、シラトラさんは知らない」
コズエさんが声をあげて笑い、カニの長老が口を押えて笑った。
「曲を聞けば、あなたも知ってるわよ」
と言ってさわりを歌うと、マメコブシガニのマメコが拍手をした。
「あるある、聞いたことある!」
そう言って、水槽の前でぴょんぴょん飛び跳ねる。
ガラスの壁にすがりつく一同。
「もともとの歌詞は男の人が主人公になってる歌詞だけど、女性向けの歌詞に変えて歌う女性歌手もいるわよ。アメリカ人なら誰もが大好きな歌のひとつね。
アメリカっていう国に住む人が求めているあるべき姿っていうのかしら、アメリカン・ドリームを追いかけた人の物語の歌よね」
カニのタロウがガラスに顔をくっつけて耳を傾けた。
「ふーん」
「『わが道を行く』っていうのは、男の人だけじゃなくて、女の人にとっても大切なことよね?」
拳を握るハコちゃん。
「うん。ハコちゃんもわが道を行く! 虹を超えて!」
ハコちゃんが、コズエさんの顔を見ながら不思議そうに聞いた。
「そういえば、お母さんの『My Way』は?」
一瞬息を呑んだコズエさんが、視線を変えて、水槽の中のヨッシーのお腹を指でつつきながらゆっくり答えた。
「そうね。
お母さんの『My Way』は、どこにいっちゃったのかしらね、、、?」
「お母さん、迷子?」
「そうかもね。昔はあったんだけど、いつからか、わからなくなっちゃったみたい」
ハコちゃんの目が大きくなった。
「一緒に探そうか?」
二人してにっこり。
水槽の面々は、ガラスの壁に張りついたままだ。(終わり)




