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第12話 本当は怖いお掃除ロボット

「じゃあ、よろしくね!」

 玄関で靴を履いたコズエさんが、お掃除ロボットの「ロンバ君」に話しかけながら背中のスイッチを押した。

 ピロピロポン!

 軽やかな電子音が返事をして、両肩の回転ブラシを内側に回しながらゆっくりと進み始める。

 コズエさんはその動き出しを確認すると、玄関を閉め自転車に乗って勤め先に向かった。

 これで青木家の中は空っぽになった。ただ、水槽の住民を除けば、だけれど。


「タロウ、何を眺めてるんじゃ?」

 背中の後ろから、カニの長老が声をかける。

「いえ、このお掃除ロボットを見てると、飽きないんです」

「どれ」

 長老も水槽のガラス壁に身を寄せて、二人で並んで見下ろした。

 ゆっくり真っ直ぐ進んだかと思うと、突然立ち止まる。壁に沿って進み、角があるとぐるりと回り込む。

 考え込むような素振りをみせ、急に反対側を向いたりする。

 スピードも、早かったり遅かったりの変化がある。なにしろ、動きが単純じゃないのだ。何かを探索しているようにも見える。

「多分、この家の間取りや部屋の構造をスケッチしてるんじゃないかと、ぼくは推測してるんです」

「ほほうっ、面白そうじゃな」

「だって、自分の動きを画用紙にプロットすれば、掃除している部屋の広さや形を学習できますよね? 

 そうすれば、次に掃除するとき効率的に掃除できます」

「おおっ、タロウの言うとおりじゃな。AI搭載のロボットじゃな?」


 青木家は木造3階建で、水槽の置かれた玄関から廊下を行くと奥にダイニング・キッチンがあり、その左側に洗面所と風呂場がある。ここまでがフローリング。

 玄関の右脇にはピアノが置かれた四畳半があり、そことDKの間に六畳の居間がある。この二間は畳敷きになっていて、間の(ふすま)を開ければ3室通しの続き部屋になる間取りだ。

 2階には夫婦の寝室、繁とハコちゃんの洋室。そして3階は、西側にタカシの部屋、東側に長女のみどりの部屋があった。

「コズエさんもフルタイムで働いているからの。普段の掃除はロボットなんじゃな?」

「はい。近所のおばさんと話すのを聞いてたら、3階用と2階用に各1台、1階の和室用に1台、それと1階のフローリング用に1台と、合計4台あるそうです。

 マンションなら大きめの1台で済んじゃうんでしょうけれど、戸建てはそうはいきません。」

「詳しいのォ?」

「ちょっと興味があるんです。

 掃除する曜日や時間もプリセットできます。二泊三日の旅行中でも勝手に掃除してくれて、電池が切れる前に自分で充電スポットに戻ってくれるから、全く世話がない。

 でも、階段とトイレだけは自分で掃除しないとって、コズエさんがボヤいてました」

 長老が右手の拳で左の手のひらを叩いた。

「そうか、わかった。階段を上り下りできるお掃除ロボットを発明したらノーベル賞もんじゃな?」

 大きくうなずくタロウ。

「災害救助用のロボット犬もできてますし、戦場で機関銃を撃つロボット犬までいるそうですから、階段掃除用のロボットなんか、そのうちできますよ、きっと」

 ダボハゼのヨッシーが二人の声を聞きつけてやってきた。

「おれの夢だな、それ。なんかひとつでもいいから特許をとって、その収入で左ウチワで暮らす!」

 長老も、つい同意してしまう。

「それ、いいの! わしらには年金なんかないからの」

 働いてないんだから、年金が出るわけがない。

「そのうち、タカシに変わって、AIロボットがぼくたちに餌をくれる日がくるかもしれませんね」

 タロウがつぶやいた。

「わしは、ロボットから餌をもらうのはご免じゃな。機械の奴隷になるようで、なんとも我慢できん。

 老いたとはいえ、プライドちゅうもんがある」

 すると、あくびをかみ殺しながらイソスジエビのスジコちゃんがやってきた。


「ロンバ君、よく働くわよね?」

 皆がうなずく。

「でも、あたしは、ちょっと不安かな」

「なんでですか?」

 タロウが代表して質問すると、スジコちゃんの目がキラリと光った。

「もし、万が一よ。ロンバ君がクラウドにつながっていて、ロンバ君が見てる室内映像がデータ転送されていたら、どうするの?」

「えええっ!」

 一同がのけぞる。

「マニュアルに全てが書かれているとは、限らないわよね?」


 さっきまで台所を掃除していたはずのロンバ君がいつの間にか玄関に戻り、水槽を見上げていた。(終わり)

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