第98話:パパ、MITの教授と意気投合する
ある日、蓮はエマをプログラムへ送っていった際、一人の男性に話しかけられた。
ボサボサの白髪に、チェックのシャツ。いかにも「理系」という風貌の初老の男性だ。
「Excuse me. Your daughter's rhythm... it's mathematically beautiful.(失礼。お嬢さんのリズム……数学的に美しいですね)」
「Oh, thank you. She loves numbers.(ありがとう。彼女は数字が好きなんです)」
立ち話をするうちに、話題はエマのことから、蓮の仕事のことへ移った。
蓮が、趣味で作った「渋滞解消アルゴリズム」の話をすると、男性の目の色が変わった。
「Wait. You wrote that code in Python? How did you optimize the variables?(待ってくれ。それをPythonで書いたのか? 変数の最適化はどうやったんだ?)」
そこからは、マニアックな専門用語の応酬となった。
蓮も久しぶりに「技術者」としての血が騒ぎ、身振り手振りでアルゴリズムの構造を解説した。
三〇分後。
男性は名刺を取り出した。
「I'm Professor Miller, from MIT Media Lab.(私はミラー。MITメディアラボの教授だ)」
蓮はのけぞった。
MITメディアラボといえば、世界最先端のテクノロジー研究所だ。
「We are looking for an engineer with your perspective. Why don't you come to our lab?(君のような視点を持つエンジニアを探していたんだ。ウチのラボに遊びに来ないか?)」
帰宅した蓮は、興奮冷めやらぬ様子で私に報告した。
「美玲、信じられない。ただのパパ友だと思ったら、MITの権威だった」
「すごいじゃない! これって、ヘッドハンティング?」
「かもしれない。……エマだけじゃない。僕も、ここでまだ成長できるかもしれない」
蓮の目は輝いていた。
「娘の付き添い」で来たはずのアメリカ。
でも、彼の実直なスキルと情熱は、言葉の壁を超えて評価されたのだ。
最強の遺伝子を支える土壌もまた、最強だったということだ。




