第97話:ハロウィンと添加物の魔女
一〇月三一日。
アメリカ中が狂乱する夜、ハロウィンがやってきた。
ここボストンでも、家々はクモの巣やカボチャで飾られ、街全体がテーマパーク化している。
「ママ、見て! 私のコスチューム!」
エマが着替えてリビングに現れた。
彼女が選んだ仮装は、プリンセスでも魔女でもなく、**「マリー・キュリー(放射能研究の母)」**だった。
白衣を着て、手には実験フラスコ(中身は緑色のスムージー)を持っている。
「……渋いチョイスね。でも知性的でいいわ」
私は褒めた。問題は仮装ではない。この後のイベントだ。
「Trick or Treat!(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!)」
エマは近所の子供たちと連れ立って、街へと繰り出した。
そして一時間後。
彼女が持ち帰ってきたバケツ(ジャック・オー・ランタン型)の中には、私の天敵が山のように詰まっていた。
・蛍光オレンジ色のキャンディコーン
・歯にくっつくキャラメル
・青色一号で着色されたグミ
「うわぁ……」
私はバケツの中身をテーブルに広げ、ピンセットでつまみ上げた。
「これは『お菓子』じゃないわ。砂糖と異性化糖(HFCS)と合成着色料の標本よ」
エマが悲しそうな顔をする。
「ぜんぶ、捨てちゃうの?」
「捨てるのはエコじゃないわ。……だから、**『取引』**をしましょう」
私はキッチンから、特製の箱を取り出した。
中身は、私が夜なべして作った「手作りロカボ・クッキー(カボチャ味)」と「高カカオチョコレート」だ。
「エマが貰ってきたその毒々しいキャンディ1個につき、ママの特製クッキー2個と交換するわ。レートは1:2。どう?」
エマは考えた。
質より量か、量より質か。
そして、ママのクッキーの美味しさを知っている彼女は頷いた。
「わかった! トレード成立!」
こうして、大量のジャンク菓子は私の管理下(廃棄または科学実験用)に置かれ、エマは健康的なおやつでお腹を満たした。
ちなみに、回収したキャンディコーンをお湯に溶かして「着色料の分離実験」をしたところ、水がドブのような色になり、エマは「……もう食べたくない」と青ざめていた。
食育完了である。




