第94話:渡米準備と、断捨離
渡米が決まってからの我が家は、引っ越し業者も引くほどのカオス状態だった。
ビザの取得、住民票の抜去、銀行口座の手続き。
蓮はExcelで完璧な「渡米ToDoリスト」を作成し、淡々とタスクを消化していたが、最大の問題は**「荷造り(パッキング)」**だった。
「美玲。この変圧器、本当に全部持っていくの? これだけで重量オーバーだよ」
蓮が指差したのは、私がリビングに並べた**「日本の調理家電三種の神器」**だ。
1.最高級炊飯器(圧力IH・土鍋コーティング)
2.ホームベーカリー(グルテンフリー対応)
3.ヨーグルトメーカー(発酵食品用)
「当たり前でしょ! これらは私の命綱よ!」
私は段ボールに緩衝材を詰めながら叫んだ。
「アメリカのキッチン事情を甘く見ないで。あっちの炊飯器なんて、ただお湯を沸かすだけの鍋よ。繊細な『甘み』を引き出せるのは日本の技術だけなの!」
「でも、電圧が……」
「変圧器を噛ませればいいのよ! あと、この『有機醤油』と『本みりん』と『乾燥麹』も絶対に入れるわ。向こうで買ったら3倍の値段がするんだから!」
私は衣類を捨ててでも、調味料と家電を優先した。
ファッションは向こうで買えばいい。でも、健康(腸内環境)は現地調達できないのだ。
一方、エマもまた、独自の選別を行っていた。
彼女のリュックには、お気に入りのドラムスティックと、大量の「折り紙」、そして愛用の「パープルのランドセル」が詰め込まれていた。
「エマ、アメリカの学校はランドセルいらないよ?」
「ううん、もっていくの。これは私のアイデンティティ(ID)だもん」
六歳児にして「アイデンティティ」という単語を使う娘に、蓮は苦笑いしてOKを出した。
出発の朝。
空っぽになった部屋を見て、私たちは一礼した。
狭いけれど、エマが生まれ、育った場所。
「……行こうか。ネクストステージへ」
「ええ。まずは機内食の糖質チェックからね」
私たちは大量の荷物(主に食料と家電)と共に、成田空港へと向かった。




