第93話:海外からのオファー
動画のバズから一ヶ月後。
一ノ瀬家のメールアドレス(蓮が管理する問い合わせ窓口)に、一通のメールが届いた。
件名は**『Invitation regarding Scholarship Program(奨学金プログラムへの招待)』**。
送信元は、アメリカ・ボストンにある世界最高峰の音楽大学の付属機関。
「ギフテッド・ユース・プログラム」からのオファーだった。
「……本物だ。ドメインを確認した。詐欺じゃない」
蓮の手が震えている。
メールにはこう書かれていた。
『あなたのドラムには、音楽と数学の融合が見られる。ぜひ我々のキャンパスに来て、世界中の才能ある子供たちと共に学ばないか? 授業料は全額免除する』
リビングに静寂が流れた。
ボストン。アメリカ。
夏休みの旅行じゃない。移住を意味する。
「……どうする? エマはまだ小学生よ。早すぎるわ」
私は動揺した。
私の仕事は? 蓮の仕事は? 日本の生活は?
しかし、エマは私たちの顔を見て、静かに言った。
「ボストンって、MIT(マサチューセッツ工科大学)があるところでしょ?」
「……え、ええ。そうね」
「行ってみたい。ここの学校の算数は、答えがわかってることしかやらないから、つまんないもん」
その言葉が、私の胸に刺さった。
そうだ。私たちは知っていたはずだ。
日本の公立小学校という「鉢」では、エマの根っこはもう窮屈になってしまっていることを。
蓮が立ち上がり、窓の外の夜景を見つめた。
「美玲。僕たちの『育成論』の最終フェーズかもしれない」
「……移住?」
「リモートワークができる時代だ。僕のスキルならどこでも働ける。美玲の知識も、健康志向の高いアメリカならもっと活かせるかもしれない」
彼は振り返り、私とエマを見た。
「リスクはある。でも、最強の遺伝子を育てるなら、最強の土壌(環境)を用意するのが、管理者の務めじゃないか?」
私は深呼吸をした。
安定した日本での暮らし。築き上げたキャリア。
それらを天秤にかけ……そして、エマの輝く瞳を見た瞬間、答えは決まった。
「……わかったわ。やりましょう」
私はニヤリと笑った。
「アメリカのジャンクフード帝国に、私の『腸活理論』で殴り込みをかけてやるわ」
こうして、一ノ瀬家の「世界進出編」が決定した。
パスポートを用意しなさい。
最強の一家が、海を渡るわよ。
(続く)




