第92話:ユーチューバーになりたい!?
自由研究での「最適化」への情熱は、エマの趣味であるドラムにも飛び火した。
彼女は、複雑な変拍子を叩く自分の姿を録画し、チェックするようになった。
「ねえ、パパ。これ、YouTubeに出したい」
夕食時、エマが言った。
私は即座に反対した。
「ダメよ。デジタルタトゥーは一生消えないの。顔出しなんてリスクが高すぎるわ」
しかし、蓮は少し考え込み、口を開いた。
「……条件付きなら、どうだ?」
「条件?」
「顔は出さない。狐のお面か何かを被る。背景も合成にして住所を特定させない。コメント欄は僕が全承認制で管理する」
蓮は私に向き直った。
「美玲。エマのドラムは、学校の音楽会レベルを超えている。広い世界に見せて、フィードバックを得る経験は、彼女の成長に必要なプロセスかもしれない」
フィードバック。
確かに、狭い部屋で叩いているだけでは井の中の蛙だ。
私は渋々承諾した。ただし、編集と管理は「鉄壁のセキュリティ」で行うことを条件に。
チャンネル名:『Masked Math Drummer(覆面算数ドラマー)』
最初の動画をアップした。
狐のお面を被った小さな女の子が、プログレッシブ・ロックの超難曲を、正確無比なリズムで叩きまくる動画だ。
最初の一週間、再生数は2桁だった。
しかし、ある日突然、通知が鳴り止まなくなった。
海外の有名ミュージシャンが、X(旧Twitter)でシェアしたのだ。
“Look at this kid! Her rhythm is insane! Is she a robot?(この子を見ろ! リズムが狂気的だ! ロボットか?)”
一夜にして、再生数は100万回を超えた。
コメント欄は英語、スペイン語、アラビア語で埋め尽くされた。
『天才だ』『クレイジー』『未来のスター』。
エマは、増え続ける数字を見て、ニヤリと笑った。
「パパ、見て。グラフが『指数関数的』に伸びてるよ」
……喜ぶポイントがそこ?
ともあれ、世界はエマを見つけた。




