第91話:夏休みの自由研究(ガチ勢)
夏休み。小学生にとっての最大の試練、**「自由研究」**の季節がやってきた。
担任の先生は言った。
「アサガオの観察でも、貯金箱工作でも、子供らしい自由な発想で作ってくださいね」
しかし、一ノ瀬家において「子供らしい」という言葉は禁句だ。
エマ(6歳)が選んだテーマは、これだった。
『当市における信号機の点灯サイクルと、渋滞発生率の相関関係および最適化アルゴリズムの提案』
「……本気?」
私が聞くと、エマは真剣な目で頷いた。
「うん。駅前の交差点、赤信号が長すぎて非効率だもん。クルマがかわいそう」
そこから、一ノ瀬家の夏休みは**「ハッカソン」**と化した。
蓮は有給を取り、ドローン(撮影許可申請済み)と高性能センサーを用意。
「よし、エマ。パパがPythonでのデータ解析を教える。ママは現場での交通量調査と、熱中症対策の水分補給管理だ」
炎天下、私たちは街頭に立ち、カチカチとカウンターを押し続けた。
夜はリビングが解析ラボになる。
エマは、蓮の指導のもと、交通シミュレーターを動かし、「青信号をあと3秒延ばせば、渋滞は15%解消される」という解を導き出した。
始業式。
エマが提出したのは、厚さ3センチのレポート用紙と、シミュレーション動画が入ったUSBメモリだった。
数日後、作品展を見に行った私は、エマの作品の前に人だかりができているのを見た。
ただし、それは称賛ではなく「困惑」だった。
「これ……小学生がやったの?」
「親が手伝いすぎじゃない?」
「可愛げがないわよねえ」
担任の先生も苦笑いしていた。
「お母さん、すごいですけど……もう少し『アサガオ』とかでもよかったんですよ?」
私は、エマのレポートを誇らしげに見つめた。
そこには、子供らしい絵はないけれど、大人顔負けの「社会への問い」があった。
可愛げ? そんなもので渋滞は解消しないわ。




