第90話:通知表と、親の通信簿
一学期が終わり、初めての**「通知表」**が渡された。
ドキドキしながら開く。
国語:◎(大変よい)
算数:◎(大変よい)
生活:◎(大変よい)
学業成績は文句なしのオールAだ。
しかし、右側の「行動の記録」欄を見て、エマの顔が曇った。
協調性:△(もう少し)
所見:自分の考えをしっかり持っていますが、お友達と足並みを揃えるのが苦手なようです。もっと周りに合わせましょう。
「……パパ、ママ。エマ、『△』だって」
エマの目から涙がこぼれた。
「エマ、わるいこなの? みんなとちがうから、ダメなの?」
学校という狭い世界では、「協調性がない」ことは致命的な欠陥のように扱われる。
彼女の自己肯定感が、音を立てて削られようとしていた。
蓮が通知表を取り上げ、じっと見つめた。
そして、おもむろに赤ペンを取り出し、通知表に書き込みを入れた。
「パ、パパ!? なにするの!」
「修正だ」
蓮は**『協調性:△』**の横に、太字でこう書き足した。
『= 独創性・リーダーシップ:SSS(神)』
「エマ、聞いてくれ。社会に出たらね、『みんなと同じことができる人』はAIに代替されるんだ」
蓮はエマの肩を掴んだ。
「『周りに合わせられない』というのは、裏を返せば『誰も見たことのない景色が見えている』ということだ。スティーブ・ジョブズもイーロン・マスクも、たぶん小学校の通知表は『協調性△』だったはずだよ」
「ほんと?」
「ああ。だから、この『△』は恥じるものじゃない。パパとママにとっては、これは『勲章』だ」
蓮は通知表をエマに返した。
「学校の先生の評価は、あくまで『教室の管理のしやすさ』の指標だ。僕たちの評価軸(KPI)とは違う。エマはエマのままで、突き抜ければいい」
「……うん!」
エマが涙を拭いて笑った。
私たちは通知表をコピーし、原本は学校に返却した(もちろん赤字は消して)。
でも、私たちの心の中には、あの**『独創性:SSS』**という評価が刻まれた。
画一的な枠からはみ出してしまうなら、枠の方を壊せばいい。
最強の遺伝子は、小さな通知表には収まりきらないのだ。
(続く)




