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課金ゲーで推しを育てるより、隣の社畜を「腸活」でイケメンにする方がコスパいい件  作者: 東雲みどり
第6章: 『第2部(続編):最強の遺伝子育成論』

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第88話:『1+1』の証明

 入学から一ヶ月。

 私のスマホに、学校から着信があった。

「九条さん(私は仕事では旧姓だが、学校では一ノ瀬だ)……いえ、一ノ瀬さんのお電話でしょうか? 担任の佐々木です」

 嫌な予感がした。

 エマが男の子を泣かせたか? それともドラムのスティックで机を叩いたか?

「実は、授業中にエマさんが……『授業の進行を妨げる発言』を繰り返しておりまして」

「妨げる発言、ですか?」

「はい。算数の授業で『1+1はなぜ2になるのですか?』と」

 私は天を仰いだ。

 やっぱり。

 帰宅後、私はエマと向き合った。

 彼女はふてくされた顔で、パープルのランドセルを放り投げていた。

「エマ。先生を困らせたんだって?」

「だって、せんせいがウソつくんだもん」

 エマは抗議した。

「『リンゴが1つ、みかんが1つ、あわせて2つ』って言うの。でも、リンゴとみかんはチガウものでしょ? 単位ユニットが違うのに、なんで単純に足せるの? それは『果物が2つ』という抽象化アブストラクションを行わないと成立しないでしょ?」

 ……末恐ろしい一年生だ。

 彼女の言っていることは、論理学的には正しい。しかし、それを小学校一年生の教室でやるのは、空気(同調圧力)を乱す行為だ。

 帰宅した蓮に相談すると、彼はニヤリと笑った。

「なるほど。エマは『概念』の話をしているのに、先生は『計算』の話をしている。レイヤーが噛み合っていないんだ」

 蓮はエマの隣に座り、こう説いた。

「エマ。君の疑問は正しい。1+1の証明は、偉い数学者でも何百ページもかけて行う難問だ」

「でしょ!」

「でもね、小学校は『学問』をする場所であると同時に、『共通言語プロトコル』を学ぶ場所なんだ」

「プロトコル?」

「そう。みんなと通信するために、『とりあえず今はこういうルールにしましょう』というお約束だ。君が深いコードを書けるのは知っているけど、学校ではまずHTMLの基礎タグを覚えなきゃいけない。……わかるかな?」

 エマは少し考えて、頷いた。

「わかった。じゃあ、こころの中では『証明終了(Q.E.D.)』ってとなえて、口では『2です!』っていうね」

「賢い選択だ。それが『社会性』というハッキング技術だよ」

 ……夫の教育方針が独特すぎて不安だが、とりあえず翌日から授業妨害は止まったらしい。

 先生からは「エマさん、とても素直になりました」と連絡が来た。

 素直になったんじゃない。大人の扱い方を覚えただけだ。

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