第81話:我が家の選択
帰りのカフェ。
私たちは重たい空気を払拭するように、アイスコーヒーを飲んだ。
「危なかったわ。ブランド名に踊らされて、エマを『量産型ロボット』にするところだった」
「同感だ。あそこの子供たち、目が死んでたよ。エマのあの天真爛漫な輝き(バグ)を修正パッチで消されるところだった」
私たちは改めて話し合った。
私たちが定義する「ハイスペック」とは何か?
有名大学に入ること? 一流企業に入ること?
違う。
これからのAI時代に必要なのは、偏差値(認知能力)じゃない。
**「非認知能力」**だ。
やり抜く力、自制心、そして何より「好奇心」と「自己肯定感」。
「私たちはエマに、正解のない問いに立ち向かえる人間になってほしい。そのためには……」
蓮がタブレットで新しいページを開いた。
「ここはどうかな? 『インターナショナル・モンテッソーリ・スクール』」
教育方針:『Help me to do it myself(ひとりでできるように手伝って)』
特徴:縦割り保育、泥んこ遊び推奨、給食は完全オーガニック&グルテンフリー対応。
「……!」
私の目が輝いた。
「オーガニック給食! それにモンテッソーリ教育は、GoogleやAmazonの創業者も受けた論理的思考を育むメソッドよ!」
「しかも、英語環境だ。グローバルな視野も身につく。ただし……」
蓮が苦笑いした。
「学費は高いし、親の参加行事も多い。お弁当の日もある。僕たちの負担は倍増だ」
私はニヤリと笑った。
「望むところよ。投資額が高ければ高いほど、リターンへの執着も湧くってものよ」
「だね。それに、エマが泥だらけになって笑ってる姿の方が、想像できる」
決定だ。
私たちはブランド幼稚園という「既製服」を捨て、エマに合わせた「オーダーメイド」の教育環境を選んだ。
数ヶ月後。
エマは面接で、先生にこう聞かれた。
「エマちゃんは、何をするのが好きですか?」
エマは、練習した定型文ではなく、目をキラキラさせてこう答えた。
「エマね、ダンゴムシあつめるの! あとね、パパのつくるプロテインパンケーキがだいしゅき!」
面接官の先生(外国人)は爆笑し、こう言った。
「Perfect! You actuary have a great passion!(完璧! 君には素晴らしい情熱があるね!)」
合格通知が届いた日。
私たちは紺色のスーツをクリーニングに出し、代わりに泥汚れに強いスニーカーを新調した。
最強の遺伝子は、野に放たれることになったのだ。
(続く)




