第8話:投資対効果の計算式
私は頭の中で、素早く計算式を弾いた。
彼に必要なのは、単純な休息ではない。積極的な「修復」だ。
そして私に必要なのは、自分の美容理論を実証し、データを取るための「被験者」だ。
私はこれまで、数多の「推し」に課金してきた。
アイドル育成ゲーム、乙女ゲーム、配信者の投げ銭。
先月なんて、画面の中の彼が「季節限定ボイス」を喋るというだけで、三万円を溶かした。
だが、冷静に考えてみてほしい。
画面の中の彼は、二次元だ。私がいくら課金しても、彼が私の目の前に現れて、私に感謝することはない。触れることもできない。こちらの働きかけで成長することもない。運営の設定したシナリオ通りに動くだけだ。
対して、目の前にいるこの男――一ノ瀬蓮はどうだ?
素材: SSR級(骨格・睫毛・身長一七八cm)。
現状: 最底辺。伸び代しかない。
操作性: 良好。私の言うことを素直に聞きそうだ。
リアリティ: 三次元。実在する。触れることができる。
もし、私が彼をプロデュースし、食事とサプリメントで管理し、完璧なイケメンに育て上げたら?
そのビフォーアフターは、私の美容理論の正しさを証明する最高のエビデンスになる。
何より――。
(……汚い野良猫を拾って、綺麗に洗って、フワフワの毛並みに仕上げる)
想像しただけで、脳汁が出そうになった。
それは、育成ゲームに課金するよりも、はるかにコストパフォーマンスが良く、知的好奇心を満たす極上の娯楽になるはずだ。
かかる費用は?
私の手作り料理(材料費)と、サプリメント代。月数万円程度だ。
ガチャを数十回回すより安い。
それでいて、リターンは「国宝級イケメンの完成」という確実な成果物。
投資判断。
――『買い』だ。
この案件、全力で投資する価値がある。




