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課金ゲーで推しを育てるより、隣の社畜を「腸活」でイケメンにする方がコスパいい件  作者: 東雲みどり
第6章: 『第2部(続編):最強の遺伝子育成論』

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第75話:夫婦喧嘩と、家出

 しかし、理屈で割り切れないのが感情だ。

 ある雨の日の日曜日。

 些細なことがきっかけで、我が家に激震が走った。

 原因は、蓮の**「うっかり」**だ。

 私が一週間かけて作り置きし、冷凍保存しておいた「無添加ハンバーグ(エマ用)」を、蓮が自分の夜食として食べてしまったのだ。

「……食べた?」

「ご、ごめん! 冷凍庫開けたら美味しそうだったから、つい……」

「『つい』ですって!?」

 私の怒りの導火線に火がついた。

 ハンバーグだけの話じゃない。日々の積み重ねだ。

 脱ぎっぱなしの靴下。洗われていない弁当箱。エマの爪切りを私任せにすること。

「あのね、あのハンバーグを作るのにどれだけ手間がかかってると思ってるの!? 玉ねぎをみじん切りにして、豆腐でカサ増しして、エマが食べるように工夫して……それを、あなたは一口で!?」

「たかがハンバーグでそんなに怒らなくても……また作ればいいじゃないか」

「『たかが』!?」

 ブチッ。

 私の中で何かが切れた。

「……そう。『たかが』家事だと思ってるのね。なら、あなたが全部やればいいわ」

 私は立ち上がり、寝室のクローゼットからボストンバッグを取り出した。

「美玲? 何してるの?」

「ストライキよ。今日は帰りません」

「えっ、ちょ、待って! エマはどうするんだ!」

「あなたがパパなんでしょ? 一人で完璧にこなしてみせなさいよ!」

 私は財布とスマホだけを掴み、泣き叫ぶエマと、呆然とする蓮を残して玄関を飛び出した。

 雨の中、タクシーを拾う。

 行き先は、駅前のビジネスホテル。

 チェックインを済ませ、狭いシングルの部屋に入る。

 静かだ。

 エマの泣き声も、Eテレの音も、洗濯機の音もしない。

 私はコンビニで買ったビールと、ジャンクな唐揚げを広げた。

 誰にも邪魔されず、好きなものを食べる。

 最高の自由。独身時代に戻ったみたい。

「……ふん。ざまあみろ」

 ビールを煽る。

 美味しい。……はずなのに。

 なぜか、味がしない。

 唐揚げも、脂っこいだけで美味しくない。

 スマホを見る。

 蓮からのLINE通知が三〇件以上溜まっている。

 『本当にごめん』

 『エマが泣き止まない』

 『お風呂どうすればいい?』

 『ご飯食べない』

 既読スルーを決め込むつもりだった。

 でも、送られてきた一枚の写真――涙でぐしゃぐしゃになりながら、玄関でママを待っているエマの写真を見た瞬間。

「……バカ。卑怯よ、それは」

 涙が溢れてきた。

 自由なんていらない。

 あの騒がしくて、手がかかって、愛おしい日常が恋しい。

 私はビールを流しに捨て、バッグを掴んだ。

 やっぱり、私の帰る場所はあそこしかない。

 一時間後。

 ずぶ濡れで帰宅した私を、蓮は玄関で抱きしめた。

 エマも足にしがみついてくる。

「ごめん、美玲。僕が悪かった。君がいなきゃ、この家は回らない」

「……私も、言いすぎたわ」

 私たちは三人で抱き合って泣いた。

 ハンバーグ一つで家出するなんて、私たちもまだまだ未熟だ。

 でも、壊れては直し、また強くなる。家族って、そうやって作っていくものなのかもしれない。

(続く)

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