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課金ゲーで推しを育てるより、隣の社畜を「腸活」でイケメンにする方がコスパいい件  作者: 東雲みどり
第6章: 『第2部(続編):最強の遺伝子育成論』

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第53話:匂いという暴力

 ポテト騒動から一週間。

 新たな敵が現れた。それは、日本人の主食であり、私たちの健康の源である「米」だ。

 夕方。

 蓮が夕食の準備を始めた時だった。

 炊飯器から蒸気が上がり始める。

 甘い、穀物の香り。

 かつては「幸せの匂い」だったそれが、今の私には「蒸れた雑巾の匂い」に変換されて脳に届いた。

「!!」

 私は口を押さえ、寝室に避難してドアを目張りした。

 いわゆる「炊き立てご飯の匂い」がダメになるタイプだ。

「美玲!?」

「ご飯……! ご飯の匂いが無理……!」

 ドア越しに叫ぶ。

 キッチンでは、蓮が途方に暮れていたはずだ。

 彼は私のために「お米マイスター」の資格まで取り、最高の土鍋で玄米を炊くことに情熱を注いでいたのだから。

 数分後。

 蓮が寝室に入ってきた。身体から匂いを消すために着替えて、消臭スプレーまでかけて。

「ごめん。配慮が足りなかった」

「ううん、蓮は悪くない……私が、おかしいの……」

 ベッドの中で丸まりながら、私は謝った。

 栄養管理士として、夫にまともな食事も作れず、作ってもらった食事の匂いすら拒絶する。妻失格だ。

「……美玲」

 蓮がベッドサイドに座る。

「僕たちの契約、覚えてる?」

「契約……?」

「『期間は一生。報酬は僕のすべて』」

 彼は私の乱れた髪を優しく撫でた。

「今は、僕が君を管理する番だ(ターンオーバー)。君の腸内環境も、栄養バランスも、今は忘れていい。僕が全部計算して、君が食べられるタイミングで、食べられるものだけを用意する」

 彼はキッチンの方を指差した。

「当分の間、家での炊飯は禁止にする。僕はパックご飯をベランダで食べるか、外で済ませてくるよ」

「そんな……蓮の食事が……」

「僕の身体はもう完成されてるからね。少しくらい乱れてもびくともしないよ」

 彼は力こぶを作ってみせた。

 その頼もしさに、私は胸が詰まった。

 かつて、私が彼からジャンクフードを取り上げた時、彼は文句も言わずに従った。

 今、彼は私から「健康的な食事」を取り上げられたのに、文句ひとつ言わず、私の生存を最優先にしてくれている。

 ああ、これが「パートナー」か。

 私は彼に育ててもらったのかもしれない。人を許し、受け入れるという心を。

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