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課金ゲーで推しを育てるより、隣の社畜を「腸活」でイケメンにする方がコスパいい件  作者: 東雲みどり
第1章:深夜のゴミ捨て場と、瀕死の原石(全10話)

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第5話:悪魔のささやき

「鍵、忘れたんでしょう?」

 私は深呼吸をして、努めて冷静な声を作った。

 だが、鼻息は荒かったかもしれない。

「は、はい。オートロックで締め出されて……管理会社もこの時間じゃ繋がらなくて……」

「朝までここで寝るつもり?」

「まあ、部屋の前で座って待とうかと……凍え死にはしないと思いますし」

「死ぬわよ」

 私は断言した。

「今のあなたの栄養状態は飢餓レベルよ。体温調節機能が壊れてる。ここで寝たら、低体温症で免疫力が低下して、そこら辺の雑菌に感染して一発アウト。来週のデスマーチには参加できないわね」

 一ノ瀬の顔色が、さらに青ざめた。

 デスマーチに参加できないことが怖いのか、死ぬのが怖いのかは分からないが、効果はあったようだ。

「じゃ、じゃあ、どうすれば……」

「ついて来なさい」

 私はきびすを返した。

 シルクのガウンを翻し、出口へと向かう。

「えっ」

「私の部屋に来なさい。管理会社が開くまで、保護してあげる」

 一ノ瀬は口をパクパクさせていた。

 当然の反応だ。

 ほとんど会話もしたことのない隣人の女性から、いきなり部屋に誘われているのだ。美人局つつもたせか、新手の壺売りを疑うのが正常な知能というものだ。

「い、いや、でも! 僕みたいなのが、そんな……女性の部屋なんて、まずいですし……それに、汚しますから……」

 彼は自分の薄汚れたスウェットと、便所サンダルを見て首を振った。

 彼なりに、最後の理性を保とうとしているらしい。

 確かに、私の聖域クリーンルームに、このバイオハザードを持ち込まれるのは生理的に不愉快だ。できれば防護服を着せたいくらいだ。

 だが、この原石をこのまま見殺しにすることのほうが、今の私には耐え難いストレスであり、機会損失だった。

 私は振り返り、営業用の――いや、マッドサイエンティストのような笑みを浮かべた。

「勘違いしないで。変な意味じゃないわ」

「え……?」

「私は証明したいの。適切な『腸活』と『栄養管理』があれば、人間はここまで変われるということを。あなたは私の実験台モルモットとして最適な検体なのよ」

「じ、実験台……?」

 一ノ瀬はポカンとしている。

 思考処理が追いついていないようだ。糖分不足の脳では無理もない。

 私は畳み掛けるように、彼が今一番欲している言葉を投げかけた。

「……水が、飲みたいんでしょう?」

 その一言が決定打だった。

 彼はビクリと反応し、渇ききってひび割れた唇を舐めた。

 カフェインとアルコールで脱水状態の身体が、悲鳴を上げているのが聞こえるようだった。

「……み、水……」

「うちには、最高級の浄水器があるわ。コンビニの水なんて目じゃない、細胞が喜ぶ水よ」

 それは、悪魔のささやきだった。

 あるいは、砂漠の旅人にオアシスをチラつかせるようなものだ。

 彼はふらふらと立ち上がり、吸い寄せられるように私についてきた。

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