第47話:一生ものの契約書
一ノ瀬が内ポケットから取り出したのは、小さなベルベットの小箱だった。
キャンドルの光を受けて、その箱が厳かに輝く。
「……期間は一生。報酬は、僕のすべてです」
彼が箱をパカリと開ける。
そこには、シンプルだが洗練されたプラチナのリングが鎮座していた。
石はダイヤモンド。派手すぎない、けれど確かな輝きを放つ、最高品質(VVSクラス)の石だ。
「僕と、結婚してください」
直球だった。
小細工なしの、ド直球。
「九条さんは言いましたよね。美容も健康も、投資に対するリターンの追求だと」
「え、ええ……」
「僕は、あなたにとって最高のリターンを出し続ける自信があります。僕という資産を、一生かけて運用してくれませんか? 絶対に損はさせません」
プロポーズの言葉まで、私の思考回路に寄せてきている。
私は呆れた。そして、どうしようもなく愛おしくなった。
「……バカね。投資っていうのは、リスクがあるから面白いのよ」
私は震える手でグラスを持ち上げ、一口飲んで喉を潤した。
心拍数がレッドゾーンを振り切っている。
「あなたはまだ完成形じゃない。これから加齢もするし、病気になるリスクもある。メンテナンスコストだってバカにならないわ」
「はい。それでも、僕を選んでくれますか?」
一ノ瀬の瞳が、真っ直ぐに私を射抜いている。
その瞳は、一ヶ月前の淀んだ色とは違う。私が与えた栄養と、彼自身の意志で輝く、世界で一番綺麗な瞳だ。
計算機を叩くまでもない。
私の人生における、この投資案件の評価は――。




