第46話:夜景よりも綺麗なもの
レストランは、東京の夜景を一望できる高層階にあった。
案内されたのは、一番奥の個室。
照明は暗く、キャンドルの炎だけが揺らめいている。
「乾杯しましょう。九条さんの未来と、僕たちの出会いに」
「……キザね」
オーガニックのシャンパンで乾杯する。
運ばれてくる料理は、どれも完璧だった。
前菜は、三〇種類の野菜を使った発酵テリーヌ。
メインは、牧草牛のロースト。
ソースに至るまで、白砂糖や添加物は一切使われていない。
「すごいわ……。本当に私の好みを熟知してる」
「リサーチしましたから。九条さんが笑顔で食べられるものしか、このテーブルには乗せません」
一ノ瀬は、私が美味しそうに食べる姿を、愛おしそうに見つめていた。
窓の外には、宝石箱をひっくり返したような東京の夜景が広がっている。
でも、彼の視線はずっと私に注がれていた。
「……夜景、見ないの?」
「見てますよ。夜景よりも綺麗なものを」
彼は平然と言ってのけた。
私はフォークを取り落としそうになった。
「九条さん」
彼は真剣な表情になり、ナイフとフォークを置いた。
「一ヶ月前、ゴミ捨て場で僕を拾ってくれて、ありがとうございました」
「……お礼なら、もう十分もらったわ」
「いいえ、足りません。あなたは僕の肌だけじゃなく、人生そのものを変えてくれた。モノクロだった世界に、色を与えてくれた」
彼はテーブル越しに、私の手に自分の手を重ねた。
「契約は終わりました。でも、僕はもう、あなた無しの人生なんて考えられません」
心臓が痛いほど脈打つ。
来る。
決定的な言葉が。
「僕の新しい契約プランを提案させてください」
彼はジャケットの内ポケットから、何かを取り出した。
「期間は、一生。報酬は、僕のすべてです」




