第44話:逆転のプロデュース
「……プロデュース、ですって?」
私が目を丸くすると、一ノ瀬はポケットから一枚のカードを取り出し、テーブルに置いた。
都内でも予約困難とされる、高級レストランのショップカードだ。
「ここ、予約しました。土曜日の夜一八時」
「ここって……『発酵フレンチ』の有名店じゃない。化学調味料不使用、全メニューグルテンフリーの……」
私は絶句した。
この店は、私が「いつか行きたい」とチェックリストに入れていた場所だ。食への意識が高い富裕層しか相手にしない、超一流店。
「どうして私の好みが?」
「この一ヶ月、九条さんに叩き込まれましたから。九条さんが何を良しとし、何を嫌うか。あなたの思考回路は、僕の中にインストールされています」
一ノ瀬はニッと笑った。
その笑顔は、かつての頼りない彼のものではなく、自信に満ちた捕食者のようだった。
「今まで僕は、あなたに管理される側でした。でも、最後くらいカッコつけさせてください。初任給……じゃなくて、生まれ変わった僕の最初の投資先は、あなたであってほしいんです」
「投資先……」
その言葉の選び方に、私の胸がキュンと鳴った。
彼は私の言葉を覚えている。美容も健康も、そして人間関係も「投資」だと。
「……高いわよ、私の合格ラインは」
私は震える声で精一杯の強がりを言った。
「中途半端なエスコートをしたら、減点方式で即帰宅するわよ」
「望むところです。最高評価(Sランク)を取りに行きます」
彼は私の目を見て断言した。
……ダメだ。
テストステロン全開の彼に、私の自律神経が乱されっぱなしだ。




