第43話:プロジェクト完了の通達
その日の夜。
私の部屋で、私たちは祝杯を挙げていた。
グラスの中身は、オーガニックの赤ワイン(ポリフェノール豊富)。
「バグ修正完了、そしてプロジェクトの成功。おめでとう」
「ありがとうございます。全部、九条さんのおかげです」
カチン、とグラスを合わせる。
一ノ瀬は本当に嬉しそうにワインを飲んでいる。
その横顔を見ながら、私は胸の奥に冷たい石が落ちたような感覚を覚えていた。
カレンダーを見る。
今日で、ちょうど一ヶ月。
私たちが交わした「一ヶ月でイケメンにする」という契約の満了日だ。
「……一ノ瀬さん」
「はい?」
「今日で、約束の期間は終わりよ」
一ノ瀬の手が止まった。
「あなたはもう、健康的な生活習慣を身につけた。食事の選び方も、睡眠の重要性も理解している。肌も髪も、完全に生まれ変わったわ」
私は努めて事務的な口調で続けた。
「つまり、私の『管理』はもう不要ということ。このプロジェクトはコンプリート(完了)よ」
部屋の空気が、シンと静まり返った。
加湿器の音だけが響く。
「……それって、もうここには来ちゃいけないってことですか?」
一ノ瀬の声が震えていた。
その捨てられた子犬のような目を見ないように、私はワインを一気に飲み干した。
「契約終了とはそういうことよ。あなたはもう自立できる。いつまでも私に依存していたら、せっかく上がったテストステロンが下がるわよ」
嘘だ。
本当は、「ずっとここにいて」と言いたい。
でも、言えない。
私は「管理者」として彼に接してきた。恋愛感情で彼を縛り付けるのは、私の美学が許さない。
もし彼が、私という「矯正器具」が外れて清々するなら、それはそれで彼の幸せだ。
そう自分に言い聞かせた。
「……わかりました」
一ノ瀬は静かにグラスを置いた。
その表情が、ふっと大人びたものに変わったのを、私は見逃していた。
「契約終了ですね。承知しました」
「え、ええ……」
「では、これからは『契約外』の話をさせてください」
彼は立ち上がり、私の前に立った。
その影が私を覆う。
一ヶ月前とは違う、男の圧迫感。
「今週末、空けておいてください」
「え?」
「僕にプロデュースさせてほしいんです。九条さんの時間を」




