第42話:噂の「美しすぎる管理者」
翌日。
一ノ瀬の会社では、ちょっとした伝説が爆誕していた。
出社した一ノ瀬を待っていたのは、スタンディングオベーションだった。
デスマーチを終わらせた救世主。
そして何より――。
「おい一ノ瀬! 昨日の美女は誰だ!?」
「お前の彼女か!? モデルか女優だろ!?」
「あんな美人に『管理下にある』とか言われて、お前どんな徳を積んだんだよ!」
男性社員たちが質問攻めにしてくる。
一方で、女性社員たちは遠巻きにヒソヒソと噂していた。
「あれじゃあ勝ち目ないよね」「レベルが違うわ」と、敗北宣言が聞こえてくる。
そんな中、高橋さんがコーヒーを持って現れた。
一瞬、空気が凍る。
だが、彼女はサバサバとした笑顔を一ノ瀬に向けた。
「……完敗です、一ノ瀬さん」
「え?」
「あんな綺麗な人に、あんな剣幕で守られたら、私なんて出る幕ないですよ。昨日のあの人、本当に怖かったけど……ちょっとカッコよかったし」
高橋さんは「はい、これ」と、ブラックコーヒー(砂糖なし)を一ノ瀬の机に置いた。
「もう甘いのはあげません。怒られちゃうから」
「……ありがとうございます、高橋さん」
一ノ瀬は苦笑いしてコーヒーを受け取った。
彼は気づいていた。
周囲の目が、以前のような「憐れみ」ではなく、「尊敬」と「羨望」に変わっていることに。
彼はPCの画面に映る自分を見た。
自信に満ちた表情。整った肌。
これらはすべて、あの人がくれたものだ。
(……早く会いたい)
定時まであと八時間。
一ノ瀬はかつてないほどの集中力で、業務に取り掛かった。




