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課金ゲーで推しを育てるより、隣の社畜を「腸活」でイケメンにする方がコスパいい件  作者: 東雲みどり
第5章:契約終了と、新しい関係の始まり

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第41話:深夜のタクシーと、オキシトシン

深夜四時。

 私たちはタクシーの後部座席に並んで座っていた。

 車窓を流れる東京の街明かりが、疲れた目に滲んで見える。

「……終わりましたね、バグ修正」

「ええ。よくやったわ。あの集中力、ドーパミンがドバドバ出てたわよ」

 一ノ瀬は私の言葉にふにゃりと笑い、シートに深く身体を沈めた。

 参鶏湯サムゲタンと、私の「応援」の効果は絶大だった。彼はあの後、通常なら三日かかる修正作業を、たった三時間で完遂したのだ。

「九条さん」

「ん?」

 ふいに、一ノ瀬の手が私の手に重なった。

 ビクッとして彼を見る。

 彼は目を閉じたまま、私の手をギュッと握りしめた。

「……こうしてると、落ち着きます。脳の興奮が冷めていくというか……」

 私はその手を振り払うことができなかった。

 それどころか、握り返している自分がいた。

「……スキンシップは『オキシトシン』を分泌させるからね」

 私は誰に聞かせるでもなく、小さく講釈を垂れた。

「オキシトシンは別名『愛情ホルモン』とも呼ばれる神経伝達物質よ。ストレス中枢を鎮静化させ、コルチゾール値を下げる効果がある。今のあなたには医学的に必要な処置よ」

「……ふふ、医学的に、ですか」

「そうよ。勘違いしないで」

 一ノ瀬は目を開け、少し悪戯っぽい瞳で私を見た。

 その顔は、一ヶ月前の自信なさげな社畜の顔ではない。

 仕事を成し遂げた男の、色気のある顔だった。

「じゃあ、このドキドキするのは何の効果ですか?」

「……それは、アドレナリンの残滓ざんしよ。吊り橋効果みたいなもの」

 私は顔を背けて窓の外を見た。

 嘘だ。

 私の心拍数も、彼と同じリズムで跳ね上がっている。

 タクシーの中という密室。重なる体温。

 「管理者」という仮面が、音を立てて剥がれ落ちそうだった。

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