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第38話:管理者の決断
同時刻。私の部屋。
私はイライラと貧乏ゆすりをしながら、スマホを睨みつけていた。
既読がつかない。
最後のアドバイス「ビタミンCを大量摂取して(ストレス対策)」を送ってから、一二時間が経過している。
「……死んでるんじゃないでしょうね」
私は立ち上がり、冷蔵庫を開けた。
そこには、彼のために仕込んでおいた「参鶏湯」が入っている。
丸鶏にもち米、高麗人参、ナツメ、クコの実を詰めて煮込んだ、最強の滋養強壮スープだ。
このまま腐らせる?
私が手塩にかけて育てた作品(一ノ瀬)が、あんな劣悪な環境で、またボロボロの雑巾に戻っていくのを指をくわえて見ているの?
「……ありえないわ」
私は鍋を保温ジャーに移し替えた。
そしてクローゼットを開ける。
選んだのは、純白のパンツスーツ。
足元は九センチのピンヒール(クリスチャン・ルブタン)。
メイクは戦闘用だ。真紅のルージュを引き、アイラインを跳ね上げる。
「メンテナンスの時間よ」
鏡の中の自分に告げる。
私はただの隣人ではない。彼の「管理者」だ。
管理不届きで資産価値が下がるのを防ぐ義務がある。
私は保温ジャーと、サプリメントの入ったバッグを手に、深夜の東京へと飛び出した。




