第37話:デスマーチ再来
平穏な日々は、唐突に終わりを告げた。
一ノ瀬の会社の基幹システムに、致命的なバグが見つかったのだ。
『申し訳ありません。今日から泊まり込みになります』
『帰れるのは数日後になりそうです』
一ノ瀬からのLINEは、日を追うごとに短く、悲壮になっていった。
三日が経過した。
一ノ瀬蓮は、再びゾンビになりかけていた。
オフィスの空気は最悪だ。怒号が飛び交い、睡眠不足の社員たちが床で仮眠を取っている。
一ノ瀬もまた、三〇時間以上起き続けてモニターと睨めっこしていた。
「……くそ、どこだ……原因は……」
視界が霞む。頭が重い。
コルチゾール(ストレスホルモン)が大量分泌され、脳のニューロンを攻撃しているのがわかる。
せっかく整った肌も、乾燥したオフィスの空気とブルーライトの集中砲火で、急速に潤いを失いつつあった。
「一ノ瀬さん、差し入れですぅ」
そこに、高橋さんが現れた。
彼女の手には、コンビニの袋いっぱいの「エナジードリンク」と「激辛カップ麺」が握られている。
「これ食べて目ぇ覚ましましょ! 辛いのが一番効きますから!」
「あ、ありがとうございます……」
普段なら断るが、今の彼には判断力がない。
それに、脳が極限状態で「手っ取り早い糖質と刺激」を求めて悲鳴を上げている。
一ノ瀬の手が、カプサイシンと添加物まみれのカップ麺に伸びる。
九条さんとの約束が、霞んでいく。
(……ごめんなさい、九条さん。もう、限界です……)
彼がカップ麺にお湯を注ごうとした、その時だった。




