第35話:グルテンvs腸活
私の予感は的中した。
翌日の夜、一ノ瀬は死んだ魚のような目で帰宅してきた。
「……九条さん……やられました……」
玄関を開けるなり、彼は崩れ落ちた。
漂ってくる匂いで、私は事態を察した。
ニンニク、焦げたチーズ、そして酸化した油の匂い。
「……イタリアンね?」
「はい……プロジェクトの打ち上げで……高橋さんが幹事で……」
一ノ瀬が語った地獄の宴はこうだ。
店は「ピザ食べ放題」のチェーン店。
「一ノ瀬さん、たくさん食べてくださいね♡」と、高橋さんが次々と皿に取り分ける。
・山盛りのフライドポテト(酸化油)
・ベーコンとクリームのカルボナーラ(小麦グルテン+動物性脂肪)
・クアトロフォルマッジ(乳製品の塊+ハチミツ糖質)
断ろうとする一ノ瀬に対し、上司や同僚も「最近付き合い悪いぞ」「食え食え」と加勢。
四面楚歌の状態で、彼は一ヶ月守り抜いた「グルテンフリー&カゼインフリー」の誓いを破らざるを得なかったのだ。
「……お腹が、重いです。鉛を飲み込んだみたいに……」
「当然よ。一ヶ月かけて綺麗にした腸の絨毛に、小麦のグルテンがべっとりと張り付いたのよ。消化不良を起こしてガスが発生してるわ」
私は彼のお腹に手を当てた。
パンパンに張っている。
腸が悲鳴を上げているのが聞こえるようだった。
「顔色も最悪ね。糖化でくすんでるし、明日の朝にはニキビができるわよ」
「ううう……助けてください、管理者様……」
一ノ瀬が涙目で私を見上げる。
その情けない姿に、呆れと同時に、どうしようもない庇護欲が湧き上がった。
「……仕方ないわね。緊急メンテナンスを行うわ。こっちに来なさい」
私は彼の手を引き、寝室へと連れて行った。




