第34話:敵陣営からの補給物資
その日の夜。
一ノ瀬が帰宅し、いつものように私の部屋で夕食(サバの味噌煮と、小松菜の胡麻和え)を食べ終えた時のことだ。
「……で、怒らないから出しなさい」
私が手を差し出すと、一ノ瀬はバツの悪そうな顔でカバンをごそごそと探り、二つのブツをテーブルに置いた。
1.ピンクのラッピング袋に入った手作りクッキー
2.高級ブランドのチョコレート
「……持ち込み禁止物資ね」
「す、すみません! 断れなくて……食べるつもりはないんですけど、捨てるのも忍びなくて……」
私はクッキーの袋を摘み上げ、しげしげと観察した。
可愛らしいハート型。焼き色は均一。かなり手慣れている。
だが、私の分析眼は騙されない。
「バターの代わりにマーガリンを使ってるわね。安っぽい油の匂いがする。それに、この表面のテカリ……ショートニングね」
「えっ、わかるんですか?」
「匂いで分かるわよ。これは『トランス脂肪酸の爆弾』。あなたの細胞膜をプラスチックみたいに硬くして、代謝を落とす気ね」
私はクッキーをテーブルに戻し、今度はチョコレートの箱を睨んだ。
「こっちは高級品だけど……カカオ含有量が低いミルクチョコね。原材料のトップが『砂糖』よ。血糖値スパイクを起こさせて、あなたをインスリン漬けにする気?」
一ノ瀬は青ざめた。
「そ、そんな殺し屋みたいな意図はないと思いますけど……」
「いいえ、あるわ。これは『餌付け』よ」
私は断言した。
高橋さんと言ったか。あのゆるふわ系の女は、本能的に理解しているのだ。
男を落とすには、胃袋を掴むのが早い。それも、健康的で味気ない食事ではなく、脳が快楽を感じる「糖と脂」で中毒にさせるのが一番だと。
「一ノ瀬さん。この物資は私が没収します。職場での処分に困ったら、全部持ち帰りなさい。私が責任を持って廃棄(または私のチートデイに消費)するわ」
「は、はい……お願いします」
一ノ瀬は安堵の息を漏らした。
だが、敵もさるもの。
これくらいで諦める相手ではないことを、私は女の勘で察知していた。




