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課金ゲーで推しを育てるより、隣の社畜を「腸活」でイケメンにする方がコスパいい件  作者: 東雲みどり
第4章:バグ発生と、独占欲の暴走

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第32話:白い粉の誘惑(手作りクッキー)

 オフィスにて。

 一ノ瀬蓮は、最大の危機に直面していた。

 時刻は一五時。魔のおやつの時間。

 総務部の高橋さんが、ピンク色のラッピング袋を持ってデスクに現れたのだ。

「一ノ瀬さん、お疲れ様です♡」

「あ、高橋さん。お疲れ様です」

「これ、昨日家で焼いたんです。クッキー。よかったら食べてください!」

 周囲の男性社員から「うおおおマジか!」「手作り!?」という嫉妬の声が上がる。

 以前の僕なら、女神からの施しとして涙を流して拝領していただろう。

 だが、今の僕の脳内には、九条美玲という美しき検閲官が住んでいる。

 ――『分析眼スキャン』発動。

 目の前の可愛らしいクッキーを見る。

 九条さんの教えが脳内で再生される。

 成分推測:

 小麦粉グルテン……腸壁を荒らす炎症の元。

 白砂糖スクロース……血糖値スパイクを引き起こし、細胞を糖化コゲさせる老化物質。

 マーガリン(トランス脂肪酸)……プラスチックごみ同然の油。細胞膜を硬くする。

 (……毒だ)

 僕の生存本能が警報を鳴らした。

 今のクリーンな身体にこれを入れれば、間違いなく肌荒れか、ダルさを引き起こす。

 しかし、笑顔で差し出された好意を無下にするわけにはいかない。

「……あ、ありがとうございます。すごく美味しそうです」

「今食べてみてくれませんか? 感想聞きたくて」

 高橋さんが期待の眼差しで見つめてくる。

 逃げ場がない。

 「小麦アレルギーで」と嘘をつくか? いや、先週のランチでパスタを食べているところを目撃されている。

「すみません、今、トレーナーの指導で『糖質制限』をしていて……」

「えー? 一ノ瀬さん十分細いじゃないですかぁ。一個くらい大丈夫ですよぉ」

 じりじりと詰め寄られる。

 甘い匂いが鼻をくすぐる。

 その時、救世主が現れた。

「一ノ瀬、ちょっといいか?」

 上司が手招きしている。

 僕は弾かれたように立ち上がった。

「す、すみません! 呼ばれたので! クッキーは後でいただきます!」

 僕はクッキーの袋をひったくり、逃げるように席を立った。

 背後で、高橋さんがむうっと頬を膨らませている気配を感じながら。

 ……危なかった。

 しかし、手元には「クッキー」が残った。

 捨てれば天罰が下る。かといって食べられない。

 僕はそれを、そっとカバンの奥底に封印した。

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