第25話:月曜日の憂鬱を吹き飛ばせ
月曜日の朝。七時三〇分。
決戦の時だ。
私の部屋のチャイムが鳴る。
ドアを開けると、そこにはフル装備の一ノ瀬蓮が立っていた。
昨日仕立てたミッドナイトブルーのスリーピーススーツ。
白のワイドカラーシャツに、ネイビーのソリッドタイ。
髪はワックスで完璧にセットされ、額が出ている。
足元は磨き上げられた黒のストレートチップ。
「おはようございます、九条さん」
彼が微笑むと、朝の廊下の空気が一瞬で華やいだ気がした。
爽やかすぎる。
以前の、死んだような顔で「会社行きたくない……」と呟いていたゾンビと同一人物とは到底思えない。
「……おはよう。悪くないわね」
私は彼に、特製の「朝食スムージー(小松菜、バナナ、プロテイン、MCTオイル入り)」を手渡した。
「これを飲んで出撃しなさい。脳のエネルギーになるわ」
「ありがとうございます。……あの、行ってきます」
「ええ。胸を張って行きなさい。あなたは私が作り上げた最高傑作なんだから、自信を持ちなさい」
私が背中をバンと叩くと、一ノ瀬はハッとしたように振り返り、深く頭を下げた。
「九条さん。一ヶ月間、本当にありがとうございました。今の僕があるのは、全部あなたのおかげです。……この御恩は、必ず仕事の結果で返します」
その真っ直ぐな瞳に、私はドギマギして視線を逸らした。
「い、いいから早く行きなさい! 遅刻するわよ!」
「はい! 行ってきます!」
彼は颯爽とエレベーターホールへと歩き出した。
その背中は広く、頼もしかった。
エレベーターの扉が閉まるまで、私は彼を見送っていた。
扉が閉まった瞬間、私は廊下の壁に背中を預け、ずるずるとしゃがみ込んだ。
「……カッコよすぎるでしょ、反則よ……」
心拍数が上がっている。
手塩にかけて育てた「推し」が、メジャーデビューする日のプロデューサーの気分。
いや、それ以上の――独り占めしたかったという、厄介な感情が胸を締め付けた。




