第24話:仕上げの魔法(アイブロウ)
日曜日の夕方。
表参道と銀座での買い物を終え、マンションに戻った私たちは、私の部屋で「最後の仕上げ」を行っていた。
「じっとしてて。動くとカミソリで瞼を切るわよ」
「は、はい……緊張します……」
私はソファに座らせた一ノ瀬の顔を覗き込み、眉用シェーバーを構えていた。
髪型と服が完璧でも、眉毛がボサボサでは台無しだ。
眉は顔の額縁。特に男性の場合、眉の形一つで「意志の強さ」や「知性」が決定づけられる。
「あなたの眉は濃くてしっかりしてるけど、眉尻が下がっていて『困り顔』に見えるの。余分な産毛を処理して、角度を二度上げるわ」
ジジッ、ジジッ。
慎重に刃を動かす。
至近距離にある彼の顔。
一ヶ月前、毛穴の黒ずみを数えていた時とは、まるで違う感情が湧き上がってくる。
肌は滑らかで、シェービングクリームの滑りがいい。
長い睫毛が震えているのが見える。
私の吐息がかかる距離で、彼が息を止めているのが分かった。
「……九条さん、近いです」
「プロに任せなさい。邪念を捨てるのよ」
私は自分に言い聞かせるように呟き、最後の産毛をカットした。
ブラシで整え、少し離れて確認する。
「……完璧」
下がり眉だった彼の表情が、キリッと引き締まった。
それだけで、頼りなさげな青年から、決断力のあるリーダーのような顔つきに変わった。
「鏡を見て」
「うわっ……! これ、僕ですか? なんか……目力が強くなった気がします」
「眉と目の距離を近づけたからね。これでハッタリが効くわ。明日、上司に理不尽なことを言われても、この眉で睨み返せば相手は怯むはずよ」
一ノ瀬は鏡の中の自分に向かって、何度かキメ顔を作っていた。
その横顔を見ながら、私はふと、寂しさに似た感情を覚えた。
泥だらけの原石を拾って磨いていたつもりが、いつの間にか宝石になって、ショーケースの向こう側に行ってしまうような。
そんな予感がした。




