第21話:表参道という戦場
土曜日の午前一一時。
私たちは、東京のトレンドの最前線、表参道に降り立った。
ハイブランドの路面店が建ち並び、道行く人々は皆、雑誌から抜け出してきたかのように洗練されている。
そんなキラキラした空間に放り込まれた一ノ瀬は、借りてきた猫のように背中を丸めていた。
「く、九条さん……僕、場違いじゃないですか? 石とか投げられませんか?」
「背筋を伸ばしなさい」
私は彼の背中をバン、と叩いた。
「今の一ノ瀬さんなら、石どころか熱視線を投げられるわよ。自分の顔を信じなさい」
今日の一ノ瀬は、私が指定した白のTシャツに、黒のスラックスというシンプルな格好だ。
まだ髪はボサボサだが、服の上からでも分かる引き締まった肉体と、輝くような肌のツヤは、すでに「ただ者ではない」オーラを放ち始めている。
「いい? これから向かうのは私の行きつけの美容室よ。担当のカリスマ美容師には『最高級の素材を持ち込むから、震えて待て』と伝えてあるわ」
「ハードル上げすぎじゃないですか!?」
一ノ瀬が悲鳴を上げたが、私は無視して彼の手を引き、雑居ビルのエレベーターに押し込んだ。
最上階。扉が開くと、そこはアロマの香りとハウスミュージックが流れる、コンクリート打ちっぱなしの異空間だった。
「いらっしゃいませ、九条様。お待ちしておりました」
出迎えたのは、金髪に黒マスク、全身をモード系ファッションで固めた男性美容師・サトウ(35)だ。
彼は一ノ瀬を一瞥すると、プロの目で瞬時に「査定」を行った。
「……なるほど。これが噂の『原石』クンですか」
「どう、サトウさん。料理しがいがあるでしょう?」
サトウはマスクの下でニヤリと笑い、一ノ瀬の周りを一周した。
「骨格、エグいっすね。特にこの顎のラインと後頭部の形。日本人の絶壁じゃない。欧米人の骨格に近いっすよ」
「でしょう? 素材はSSRなのよ」
私とサトウの専門用語トークに、一ノ瀬はまな板の上の鯉のように震えている。
「あの……お任せします……」
「安心して。君の人生、今日ここで変えてあげるから」
サトウがハサミを構えた。
革命のゴングが鳴った。




