第19話:最初の称賛
三週間目。
一ノ瀬が帰宅するなり、興奮気味に私の部屋のチャイムを鳴らした。
「九条さん! 九条さん!」
「何よ、騒々しい」
ドアを開けると、彼はまるで甲子園から帰った球児のように目を輝かせていた。
「今日、会社の女性社員に……給湯室で、話しかけられたんです!」
「へえ。なんて?」
「『一ノ瀬さん、なんか最近雰囲気変わりました? 肌めっちゃ綺麗じゃないですか? どこの化粧水使ってるんですか?』って!」
一ノ瀬は自分の頬をペタペタと触りながら、信じられないという顔をしている。
「僕、人生で初めてです。『肌が綺麗』なんて言われたの。今までは『顔色が悪い』か『寝てないの?』しか言われたことなかったのに!」
私は腕を組み、満足げに頷いた。
ついに、外部からの評価が来たか。
「で、なんて答えたの?」
「あ、えっと……『隣の美女が作ってくれたスープ飲んでます』とは言えないんで……『水を飲んでます』って答えました」
百点満点の回答だ。
余計なことを言わなかった点も含めて評価できる。
「一ノ瀬さん。他人、特に女性からの評価は絶対的な指標よ」
「と、言いますと?」
「女性は本能的に、男性の肌質をチェックしているの。『肌が綺麗=健康状態が良い=優秀な遺伝子』と無意識に判断するプログラムが組み込まれているからね」
私は彼に一歩近づいた。
「つまり、あなたは今、生物としてのランクが上がったのよ。オスとしての魅力が出始めている証拠」
「オ、オスとしての……」
一ノ瀬は照れくさそうに頬をかいた。耳まで赤くなっている。
その仕草も、以前のような卑屈なものではなく、どこか余裕と自信が感じられた。
外見の変化が、内面の自信を作り変え始めている。
自己肯定感の向上。これこそが、美容がもたらす最大の効能だ。
そろそろ、仕上げの時だ。




