第17話:コンビニという名のダンジョン
しかし、試練は外の世界にある。
その日の夜二〇時。一ノ瀬からSOSのLINEが届いた。
『九条さん、すみません。急なバグ対応で残業になりそうです。晩御飯、作っていただいたのに帰れそうにありません……』
『コンビニで何か買って食べようと思うんですが、何を買えばいいですか? 今、ホットスナックの匂いが強烈に誘惑してきます……』
添付された写真は、オフィスの近くのコンビニの棚。
煌々と輝く「揚げたてフライドチキン」と「肉まん」のケースが写っている。
疲労困憊の脳にとって、脂と糖質の匂いは暴力的なまでの魅力を持つ。
私は即座に返信画面をタップした。
『レジ横は見ないで。あなたの行くべき場所はそこじゃない』
『ミッション:以下のアイテムを回収せよ』
私は目にも留まらぬ速さでフリック入力した。
『1.サバの塩焼き(なければ水煮缶でも可)』
『2.温泉卵(タンパク質追加)』
『3.海藻サラダ(ドレッシングはノンオイルか、買わない)』
『4.無塩のミックスナッツ(おやつ用)』
『5.もずく酢(最初に食べること)』
『以上。おにぎりは一個まで(玄米か大麦入り推奨)。菓子パンコーナーに近づいたら契約破棄よ』
数分後。
戦利品の報告写真が送られてきた。
私の指定したアイテムが、律儀に並べられている。
『了解です。サバ……地味ですね……チキン食べたい……』
『文句を言わない。サバに含まれるオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)は、脳の神経伝達をスムーズにするの。バグの原因を早く見つけたいなら、酸化したチキンの油よりサバの油を摂りなさい』
既読がつき、少し間が空いてから返信が来た。
『……食べました。意外と、サバ美味しいです。脂が乗ってて満足感あります』
私はスマホを置いて微笑んだ。
遠隔操作成功。
彼が自分で「選ぶ」という行為をしたことが、何よりの進歩だ。
食が変われば、思考が変わる。
思考が変われば、行動が変わる。
一ノ瀬蓮の改造計画は、着実に進行している。




