第102話(最終回):最強の遺伝子、育成完了
帰国から数ヶ月後の週末。
久しぶりに家族三人だけで、夕食の食卓を囲んでいた。
メニューは、一ノ瀬家の原点。
「サバの味噌煮」と「具だくさんの豚汁」、そして**「玄米ご飯」**。
「いただきまーす!」
一二歳のエマは、大人と同じ量をペロリと食べる。
「やっぱりママのご飯が世界一! ボストンのピザもいいけど、味噌汁飲むと脳のシナプスが繋がる感じがする!」
「ふふ、そうでしょ。アミノ酸の力よ」
蓮が、しみじみと私とエマを見た。
「……大きくなったなぁ。あの夜泣きで僕たちがゾンビになっていた頃が、嘘みたいだ」
「本当ね。イヤイヤ期で家出したこともあったわね」
私たちは笑い合った。
大変だった。本当に、死ぬほど大変だった。
自分の美容もキャリアも犠牲にして、髪を振り乱して戦った日々。
でも。
目の前で笑う、知的で、健康的で、愛に溢れた娘を見ていると、その苦労がすべて報われる気がした。
「ねえ、パパ、ママ」
エマが箸を置いて、改まって言った。
「私を育ててくれて、ありがとう。二人の子供でよかった」
その言葉を聞いた瞬間、私の目から涙が溢れた。
「管理者」として完璧であろうとした私。
でも、私自身もまた、この子に育てられていたんだ。
「親」という、不完全だけど愛おしい生き物に。
「……こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう」
私は涙を拭いて、ニッコリと笑った。
「プロジェクト『最強の遺伝子育成』、第一フェーズ完了ね」
「ああ。大成功だ」
蓮がグラス(ノンアルコールワイン)を掲げた。
「乾杯しよう。世界一の家族に」
カチン。
グラスの音が響く。
窓の外には、日本の夜景が広がっている。
子育てはまだ続く。思春期、受験、恋愛……新たなバグ(問題)はきっと発生するだろう。
でも、私たちなら大丈夫。
最強のロジックと、最強の愛がある限り。
推しを育てるのはコスパがいい。
でも、家族を育てるのは――プライスレスだ。
(第2部・完)




