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滅びの魔女の謀  作者: 空野進
第1章 滅びの森からの逃走

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7/7

決意

 ディーさんから見えない場所まで移動すると、すぐに様子を伺うことにした。


 一見すると信用できそうには見えた。

 でも色々と隠していることが容易にわかり、全てを信用することはできない。


 敢えて名前を偽装する兵士……。


 ある程度予想はつくけど、確信は得られない。

 それに今は余計な立場を明かされるよりも兵士を退けてくれることの方が嬉しい。


 いつまでも兵士がここにいたら、いつか遭遇して再び命を狙われることになり、死んだと偽装したことが無意味になってしまう。

 そうなると嘘の報告をしたディーさんの立場も危うくなってしまう。


 だからこそ一度兵が退いてくれたら、この件に関してはディーさんが味方になってくれるということがわかるのだ。


 ……大丈夫、だよね?


 敵になった場合、なんとか追い払う必要が出てくるが、私にできることは限られている。

 この森にいる熊を利用するにしても限度があるのだから。

 そもそも自由に操れるわけではないのだから、危険と隣り合わせである。


 前回はたまたま上手くいっただけで、次襲われるのは私かもしれないのだから。


 一応、近くにいると姿が見られるかもしれないと考え、辛うじて人がいるくらいに距離は離れている。


 木登りが得意で良かったよ。今世の私……。


 もちろん前世では全然上ったことがないのだが、森の中で暮らしていたからか、この身体はしっかりと覚えていた。

 辛うじて見える距離の木の上になると声はほとんど聞こえない。


 でも、自分が見つからないための距離と考えるとそれ以上近づくということもできない。


 ディーさんが兵士の中で偉そうな人と何かを話し出す。

 どちらが上の立場かわからない状況に、彼の正体が私の予想と大きくズレていないであろうことが想像ついた。


 もし、彼が本当に私を逃がす気があるなら……。

 でも、そうじゃない場合は……。


 ギュッと髪飾りを握りしめる。

 確定したわけではないけど、たぶん私がこの森で襲われないのはお姉さんから貰ったこの髪飾りが原因……。


 この髪飾りが外れたときに熊に襲われ、再び付けたら姿が消えた。


 つまり再びこの髪飾りを手放せば……。

 そうならないことを祈りながら様子を伺う。


 すると、話していた通りに兵士たちは去っていった。

 ディーさんもそのまま去ろうとしていたが、その前に一瞬私の方を見て笑っていた。


 ――もしかして気づかれてた!?


 ただ、それ以上何も言われることなく、ディーも姿を消していた。



         ◇ ◇ ◇



 誰もいなくなったあと、私は木から下り、そのまま背もたれにして座り込んでいた。


 た、助かったよ……。


 ようやく安堵の息を吐くことができる。


 ……これからどうしよう?


 やるべき事は決まっているものの、次の行き先はまるで決まっていない。

 そもそもこの世界のことがわからないのだから、行く当てなんてあるはずもない。


 でも、魔女を狙っている人を探っていかないとだもんね。

 おそらくはディーさんが兵士たちから内部を探ってくれるはず。


 私は力を蓄えておくべきかな?

 なぜか魔法が使えなくなってるし……。


 兵士たちがいなくなったのならお姉さんの小屋の後に戻れるかも知れない。

 さすがに場所を知られているので、いつまでも過ごしてはいられないだろうけど……。



「うん、一度戻ろう……」



 一度頷くと立ち上がり、川上を目指して歩いていく。



         ◇ ◇ ◇



 静かな森の中を歩いていると、お姉さんとの楽しかった記憶が思い浮かぶ。


 両親に捨てられ、一人絶望に暮れていた魔女(わたし)を助けてくれた優しいお姉さん。


 親代わりであり、姉代わりでもあった。


 なんでそんなお姉さんが殺されなければいけなかったのだろうか……。


 すでにしわしわになっている花を更に握りしめる。


 小屋の場所はあまり覚えていない。

 それでもその場所はすぐにわかった。


 魔女(わたし)が使った魔法の痕跡がまざまざと残されていた。

 周囲一帯の木々が消滅し、あとには何も残っていない。

 それこそ爆弾が爆発したかのように思える。


 もちろんこれが魔法で行われたことは私が一番よく知っている。何せ私がしたことなのだから……。


 そっと黒ずんだ地面に手を当てる。


 何も感じない……。


 魔法が使えなくなった原因でもわかるかと思ったけど、そういった気配はまるでない。

 そもそも生き物の気配すらも消えている。


 自分の痕跡は一旦置いておく。

 私はお姉さんが殺されていた小屋近くへと向かう。


 すでに大半が燃えてしまっている小屋。


 悔しくて口を噛みしめる。

 お姉さんの姿が見当たらないのは兵士たちが持って帰ったからだろうか?

 血が滲むほど強く拳を握りしめていた。


 しかし、泣かずにグッと堪える。

 今の私にはやるべき事がある。

 ゆっくり泣くのはそれが終わってから……。



「お墓……作ろう」



 大きなものは無理なので、辛うじて燃え残った木の板を地面に差す。

 書けるものも何もないために、手に持っていた花を添えるだけ。


 簡素すぎて申し訳なく思う。

 しかし、その花を置いた瞬間に髪飾りが少しだけ光る。


 お姉さんが喜んでくれたのかもしれない。


 じわりと目に涙が溜まるがすぐに袖で拭う。

 固く決意のこもった視線を一度墓に向けると、私は小屋の中で使えるものを探し始めていた。

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