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滅びの魔女の謀  作者: 空野進
第1章 滅びの森からの逃走

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5/8

偽装

 男が口を開こうとした瞬間に、ハッと目を見開き周りを調べ始めていた。



「何かあったのですか?」

「この場所を気づかれたかもしれない。おそらくは先ほどの石……」

「あれ、拾って置いた方がよかったですか?」

「逆だ、馬鹿! あれは魔力を吸うと色を変える魔石だ。君が触ると強い光を放って、居所をすぐに知らせてしまうぞ!」

「ひっ!? さ、触らなくて良かった……」



 自分の嗅覚を褒めたくなる。



「あの魔法は残り何回使える? そろそろ魔力は回復したのか?」



 もしかして、ここまで色々と教えてくれたのは、私が凄い魔法を使えると思ったからだろうか?



「えっと、その……。ま、まだ……です」

「仕方ない、ここは上手く誤魔化しておく。君は逃げると良い」

「……いいのですか?」

「その方が便利そうだからな。いや、ちょっと待て――」



 男は何を思ったのか、腰にある剣を抜きながら私に近づいてくる。

 一瞬男の迫力に怯んでしまったが、こういう場面はお約束の背後から誰かが襲ってきているとかじゃないだろうか?


 私はチラッと背後を確認する。

 ただ、そこには何もなかった。


 つまり、剣を抜いたのは別の理由が……。

 必要な事は聞けたから口封じとか?


 思わず表情を強張らせる。



「い、一体何をするのですか?」

「黙っていろ。すぐに終わる」

「ひぃぃっ……」



 逃げようにももう既に眼前に男が迫っている。

 振り下ろされる剣に私はギュッと目を閉じる。


 左腕がじわりと熱を帯びてくる。

 感覚が麻痺しているのか、痛みはすぐに来ない。

 しかし、何かが流れ出ている感じはあった。


 恐る恐る目を開けると腕に大きな切り傷ができており、そこから血が流れ出ていた。

 それを見た瞬間に激しい痛みを感じる。



「痛いっ。痛いですよ……」

「大げさな。今更一つ傷が増えたところで大したことあるまい」

「他の傷はかすり傷で痛みもないんですよ……」

「そんなことあるはずが……。私が魔法を使う前にいくつか致命傷になりそうなものも……」



 男はハッとすると突然私の服をめくり上げてくる。

 そのあまりにも突拍子のない行動に私の反応は遅れる。



「なるほど、確かにないな」

「なっ、なっ……」



 私は顔を真っ赤にしながら体を震わせる。

 先ほど切られた腕の痛みなど気にならないほどに。

 そして、大声で叫んでいた。



「何をするんですか!!」



 手に持っていた短剣を投げつけるが、それはあっさり男に掴まれていた。

 それでも手を動かして何とか反撃を試みる。

 すると、ようやく男が手を離してくれるので、服を元に戻すと手で押さえながら睨み付ける。



「一体何を考えているのですか!?」

「何って……身体検査だ」

「こんな所で服を脱がせようとすることのどこが身体検査なんですか!」

「興味深いことができたからだ。腕の一本を持ち帰っても良いか?」

「良いはずないです!!」



 先ほどと同じ調子で話しかけてくる男。

 まるで斬りかかってきたことなどないかのように……。



「……それで」



 仕方なく私の方から話を元に戻す。



「どうしていきなり斬りかかってきたんですか? 事情があるなら教えてください」

「俺がお前を殺すつもりだった、とは思わないのか?」

「殺すつもりなら最初に殺してますよね? 痛いですけど、死ぬことはない程度の傷ですし」

「……君を逃がすために必要なことだからな」



 男はそういうとどこからか包帯と何かの液体が入った瓶を取り出していた。



「染みるぞ」



 今度は腕を掴まれるといきなり大量の液体を掛けられる。



「――っ!?」



 傷に染みるその液体に声を上げようとするが、男のしていることが治療行為なのだとわかり、グッと唇を噛みしめる。

 液体をかけ終えると包帯をグルグルに巻かれていく。


 あまり巻き慣れていないのか、それとも不器用なだけなのか、お世辞にも綺麗な巻き方とは言えないが、血を止めるのには十分だった。



「本当なら別の血を使えればよかったんだけどな。魔女の血には魔力が流れる。それで本物かどうか調べられてしまう」

「えっと、つまり――」

「ここで君は死んだように偽装する。この森は多数の魔獣がいるからな。ごまかしには困らんだろう」

「魔獣? もしかしてさっきの熊みたいな……」

「まさかグリズリーベアーに出会ったのか!? よく生きていたな」

「えっと、どういうわけか見逃してくれました」

「やはり君は森の魔女の加護でもあるのかもしれんな」

「あっ、もしかしてこの血って私がここで襲われたように見せるんですね?」

「――さっきからそう言ってるだろ?」

「詳しいことは何も言ってないですよ。でも、それなら――」



 私は男から短剣を取り戻すと既に破れてちぎれかけていたワンピースのスカートを切る。

 膝上程度の長さにはなってしまうが、元々至るところが破れていたのであまり状況は変わらない。

 ただ、男は頭が痛そうに手を当てていた。



「良い考えじゃないですか? 血だけよりも説得力がありますよ」

「君はもうちょっと恥を知りなさい」

「今更ですよ。はいっ」



 すでにボロの布切れと化した元スカートを男に渡す。



「――なんだこれは?」

「欲しいんですよね?」

「いるか!!」



 思いっきり地面に叩きつける。



「やっぱり使うんじゃないですか」

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