手紙くらいではほだされません
花束での精神攻撃は止むことはない一層酷くなるばかりだ。
最近はメッセージカードまで付けてきている。
『――あなたへ愛を込めて。』
これくらいならいい。
『――レオンより、血のように赤い愛をこめて。』
パッと見てすぐに花束に戻したイルゼを褒めて欲しい。
『見つめ合えずとも、
それでも――
同じ空に咲けた奇跡に、感謝している。』
イルゼの笑顔が震えていたのは許して欲しい。
『この花束は、僕の心そのものだ。
美しいと思ってくれるかい?
怖いと感じても構わない。
それもまた、愛だから。』
目の前で破り捨てたイルゼを誰が責められるというのか。
いい加減にしてほしいと、ついに「メッセージカードはやめてください」と苦情を申し立てた。
すると翌日から、本当に花束にカードがつくことはなくなった。
――だが、代わりに届くようになったのは手紙である。
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拝啓
イルゼ・フォン・ヴァイセンベルク様
雨がよく降る季節になりましたね。
メッセージカードはお気に召さなかったとのことですので、手紙にて失礼いたします。
本日お届けした花はアジサイとカスミソウです。
雨に濡れる姿も美しく、貴女にとてもよく似合っておりました。
過日の非礼について、心よりお詫び申し上げます。
貴女の名誉とお心を傷つけてしまったことを、深く反省しております。
今では、貴女ほど気高く素晴らしい女性はいないと確信しております。
思えば、私は貴女にほとんど自分のことを話してきませんでしたね。
こうして言葉を綴ることも、ほとんどなかった。今になって、それが悔やまれてなりません。
……ちなみに、私の趣味は狩猟と乗馬、カードゲームとチェスです。
最近はチェスに夢中で、友人と試合をした際に面白い局面が――(以下略)
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後半は延々と、友人とのチェスの対局の様子や、自分がどの駒をどう動かしたか、そして最後には「今度ぜひ、イルゼ様ともチェスをご一緒したい」という結びが添えられていた。
最初の薔薇攻撃と謝罪の花束、そしてメッセージカードで懲りたのかと思えば――。
まさか文通に移行するとは、誰が予想しただろう。
しかも、改めて手紙でも謝罪されるとは思っていなかった。
これは誠意だろうか。それとも、執着に丁寧さという包装紙を被せただけなのだろうか。
イルゼは手紙を折りたたみ、そっと机の上に置いた。
溜息をついたのは、三度目だった。
とはいえ、ノイヴィル家はイルゼの実家――ヴァイセンベルク伯爵家と長年の付き合いがある。
婚約が解消された今でも、完全に縁を切るわけにはいかない。
あまり冷たくすれば、後々ややこしいことにもなりかねないのだ。
ため息をつきながら、イルゼは渋々筆をとった。
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拝啓
レオン・エリオット卿
お手紙をいただき、ありがとうございます。
お花は父の書斎に飾らせていただきました。季節に合った見事な組み合わせでしたね。
つきましては、今後は少し――本当に、ほんの少しで構いませんので――
お花をお持ちいただく頻度を減らしていただけると、たいへんありがたく存じます。
どうぞご自愛くださいませ。
敬具
イルゼ・フォン・ヴァイセンベルク
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簡潔かつ、角が立たないように。
彼の“好意”を無下にせず、けれど決して期待は持たせないように――
そう考えた末の、ぎりぎりの文面だった。
手紙を封筒に入れ、蝋で封をした後、そっとメイドに手渡す。
「急ぎません。いつでも構わないので、ノイヴィル伯爵家へ届けてくださいな」
「かしこまりました、お嬢様」
メイドが下がっていくのを見送り、イルゼは椅子にもたれて深く息を吐いた。
こうして、ひとまず“薔薇の嵐”は収まってくれればいいのだけれど――
その願いは、あまりにも甘かったのだと気づくのは、もう少し後のことである。




