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理想の相手を探すので参加しないでください

 父は敵だった。しかも、味方のふりをして背後から刺してくるタイプの敵だ。実にタチが悪い。


 母も似たり寄ったりだろう。あのふたりは、娘の繊細な気持ちを知ろうともせず、手放しでレオンを応援している。もはや味方はどこにもいない。


 こうなったら、頼れるのは自分だけだ――**理想のお婿さんを見つけてみせる!**とイルゼは決意した。


 向かった先は、顔が広く、情報通としても知られる叔母が主催する社交パーティ。「若くて有望な青年が多く集まる」と聞き、半ば縋るような気持ちで出席をお願いしたのだった。


「はじめまして。こちらは――?」


「姪のイルゼですわ。ヴァイセンベルク伯爵家の娘ですの」


 叔母の紹介に、向かいの青年貴族は「ああ」と頷いて、やや緊張を和らげた表情を見せた。


「ああ、エリオット卿のご婚約者の!」


「違いますわ」


 にこり、と優雅に微笑みながらも、食い気味に即否定する。


「父が少し早合点しておりまして……現在、わたくしに婚約者はおりませんの」


 地味に広がってしまった“元婚約者=現役”の誤解を、こうして一人ひとり訂正するのは骨が折れる。しかし、このまま誤解が独り歩きして“レオンの女”として扱われ続けるのは御免だ。


「そうでしたか……良いご縁に恵まれるといいですね」


 青年は柔らかく微笑んだものの、どうやら既に相手がいるようだった。最初から駄目じゃないの。


 その後も叔母の手引きで何人かの男性と話をするが、なかなか「これは!」と思える出会いは訪れない。


 年齢は若くとも、無難な話しかできない“優等生貴族”や、母親の言葉ばかり引用する“マザコン気味の後継候補”、果ては“政治結婚を前提にした打算的な質問”をぶつけてくる男まで現れた。


(このままでは修道院まっしぐらかもしれない……)


 イルゼはワイングラスを持つ手を強く握りしめながら、「もう少しだけ粘ろう……!」と気合を入れ直すのだった。


 ***


「こんにちは、お嬢さん。お隣、よろしいですか?」


 声をかけてきたのは、仮面をつけた若い男性だった。

 柔らかな金色の髪に、仮面の奥からのぞく優しい緑の瞳――どこか、レオンを思わせる色合いだ。


 身なりは上品で、仕草も洗練されている。怪しい人物ではないだろうと、イルゼは静かに頷いた。


「ええ、どうぞ。でも……どうして仮面を? 今日は仮面舞踏会ではありませんよ」


 からかうように笑いかけると、相手の唇がふっと上がる。


「容姿に自信がなくて……仮面をつけて参加させてもらったんです。変ですか?」


 仮面の下に照れくさそうな笑みがのぞく。

 イルゼはほんの少しだけ肩を揺らして微笑んだ。


「いいえ。よくお似合いです」


 その言葉に、彼は嬉しそうに目を細めた。


「今日は、結婚相手を探しに?」


「実は……そうなんです。素敵な方と出会えたら、と思って」


 同じ動機を語る彼に、イルゼはどこか親しみを覚えた。

 けれど、なぜだろう――彼と話していると、胸の奥がほんのわずかにざわつく。


(レオンと……雰囲気が少し似ているせいかしら?)


 そう思うと、またしても自分の中にレオンの影が浮かぶことに腹立たしさを覚える。

 せっかく新しい出会いを探しているというのに、あの男はどこまで自分の心を支配してくるのか。


「きっと、出会えますわよ。あなたのような方なら」


 そう告げると、仮面の下で男性の目がふわりと和らぐ。


「貴女は――出会いましたか?」


「わたくし? 全然駄目でしたわ。また出直します」


 ふっと肩をすくめると、彼はわずかに安堵したような表情を見せた。イルゼにはその理由が分からなかったが、悪い気はしなかった。


「では……もう少し、ご一緒しても構いませんか。貴女に、興味があります」


 名前も素性も明かさぬ仮面の男――

 普通なら警戒すべき相手だ。けれど不思議と、彼と話を続けたいと思ってしまった。


 彼との会話は心地よかった。

 話すうちに時を忘れ、話題に夢中になっていく。彼はイルゼの言葉に何度もうなずき、時に自身の経験も交えながら話を広げてくれる。


(……こんな人が、求婚してくれたなら)


 そんな考えがふと浮かぶ。

 今まで誰とも感じたことのなかった「ぴたりと合う感覚」。

 仮面の下の素顔がどんなものであれ――そう思えるほどに、彼は魅力的だった。

 

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